前回は地球温暖化に対する対策としてグローバルで議論が進むカーボンプライシングについて取り上げましたが、今回はカーボンプライシングのひとつである「炭素税」について取り上げます。炭素税とはなにか、なぜ必要なのか、私たちの生活にどう影響するのか、についてご説明します。カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)に価格を設定する制度のことです。排出量に対する課税や排出削減分を売買するために価格が設定されます。
炭素税とは何か
炭素税とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量に課税する制度のことです。つまり、私たちがエネルギーを使ったり、車を運転したりする際に発生する温室効果ガスの量に応じて、企業や個人に課金される仕組みです。炭素税が必要な理由は、気候変動の深刻化を防ぐためです。私たちが日常的に使うエネルギーの多くは、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)を燃やすことで得られています。しかし、これらの化石燃料を使うことにより、大量の温室効果ガスが大気に放出され、地球の温暖化を引き起こしてしまいます。これにより、異常気象や海面上昇、生物多様性の減少などの深刻な影響が出ています。排出したガスの量に課金することで、企業や個人に環境負荷削減への意識変化、排出量の削減を促し、持続可能なエネルギーへの転換を加速することができます。
炭素税を導入している国
炭素税を導入している国が増えています。フィンランドは1990年に世界で初めて炭素税を導入しました。ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、オランダ、スイスなどの欧州諸国を中心に炭素税を導入する国が増え、これらの国では、排出量に応じて課金される炭素税の収益を、再生可能エネルギーや気候変動対策に活用し温室効果ガスの排出削減を図っています。炭素税を導入している国における炭素の価格は、国や地域によって異なります。炭素の価格は政府や関連する法律・規制によって設定され、通常は二酸化炭素あるいは二酸化炭素同等の温室効果ガスの排出量に対して単位ごとに課税されます。炭素税を最も早く導入したフィンランドでは、運輸に使用されるガソリンやディーゼル燃料に対し、CO21トン当たり約85米ドルが課税されます。スウェーデン、スイスの価格は欧州では最も高く、約130米ドルです。
炭素税の課題
炭素税は、気候変動に対する新たなアプローチとして注目されています。経済活動に環境への負荷を考慮した価格を付けることで、持続可能なエネルギーへの転換を促進し、気候変動を緩和する可能性があります。一方で、炭素税にはいくつかの課題も存在しています。最大の課題は、社会的な公平性の問題です。エネルギーを使うことによる排出量を課税するため、低所得者や中小企業などの経済的に弱い層に負担をかける可能性があります。炭素税は一般的に排出者である企業や産業部門が払うことが多いですが、炭素税の負担が消費者に転嫁される場合もあります。排出者が炭素税を負担することで、生産コストが上昇し、それが製品やサービスの価格に反映される可能性があります。その結果、製品やサービスの価格が上昇し、消費者がより高い価格を支払うことになるかもしれません。また、一部の産業や国が競争力を維持するために、炭素税の導入を遅らせるなどの問題もあります。さらに、炭素税だけで気候変動を完全に解決するわけではありません。温室効果ガスの排出削減には、炭素税とともに、再生可能エネルギーの普及や技術革新、消費者の行動変容などの多面的な取り組みが必要です。
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