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「サステナブルなビジネス」を実現するために― 人的資本と人権デューデリジェンス【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第38回】

 

フィリピンビジネス通信 ~コンサルの視点から~

「サステナブルなビジネス」を実現する2023。オーストラリア・アワード奨学金を獲得し、シドニー大学にて人的資源管理・労使関係の修士号を取得。人事・組織開発を専門とし、企業の変革を支援している。


Diane Cordova

 

 

前回までは、ESG(環境・社会・ガバナンス)のうちの”Environment”(環境)をテーマにフィリピン国内のエネルギー状況や国内外の規制、取り組みについて連載を行ってきました。今回からはSocial(社会)にテーマを移し、企業に求められること、企業活動との関係について考えていきます。Social(社会)には、労働環境、人権、地域社会、紛争、健康、安全、雇用・人材、ダイバーシティなどの社会課題が含まれます。これらの課題について、企業にとっての重要課題は何か、経営課題としてリスク・機会を捉え、具体的な経営判断や組織設計・運営にどう組み込んでいるかを社内外に発信していくことが必要とされています。

例えば、フィリピンの一財閥企業であるアヤラ・コーポレーションの統合報告書では、ESGのSocial(社会)に関する開示として、全グループ会社において児童労働や強制労働はない旨やダイバーシティの状況、さらに育休後の復帰率や社員一人あたりの年間研修時間等が示されています。

投資・事業戦略策定におけるESGデューデリジェンスの重要性の高まりとともに、各要素で法規制やガイドラインの整備が進められています。社会的な要素については、2018年、ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)によって、企業内外の人的資本報告に関する詳細なガイドラインが示されました。人的資本とは、個人が持つ知識、技能、能力、資質等の付加価値を生み出す資本とみなす考え方です。ISO30414は、労働力の多様性・公正な賃金慣行・労働安全衛生といったあらゆる要因を考慮し、企業の人的資本管理のあり方を評価することに重点が置かれています。その人的資本の根幹である「人」の権利と企業のあり方について、人権デューデリジェンスというアプローチがあります。

 

 

人権デューデリジェンスとは何か

 

人権デューデリジェンス(HRDD)は、企業が自社の人権リスクを積極的に評価し、洗い出されたリスクに対する対応策を検討するための体系的なアプローチです。2011年、国連は「ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGPs)」を発表しました。これは、企業の人権保護・尊重への取組みを促進するためのロードマップで、世界的な関心を集めました。実際、米国・欧州・オーストラリアなどの先進国では、従業員500人以上の企業に対し、国連やOECDの国際基準に準拠した、広範なデューデリジェンスの実施を求める国内法の制定や規制が進んでいます。

 

 

HRDDの2つの領域

 

事業活動において、人権を保護し尊重することは当然ですが、これらをいかに戦略的に行うかがカギとなります。人権を脅かす事業活動やそれらを放置することは「リスク」である一方、人権尊重を事業活動の根幹に据えることで生じる「機会」もあります。HRDDの方針を策定するには、リスクと機会の両方の領域について目を向ける必要があります。

 

 

(1)リスク領域に対処する:企業の事業活動によって引き起こされる人権への悪影響を管理し、軽減することを指します。これには、顕在化した問題だけでなく、事業に影響を及ぼす可能性のある潜在的な問題に対しての積極的な関与も含まれます。また、人材にかかるリスクは、自社の賃金公平性や労働環境に潜在するものだけではなく、ビジネス・パートナーやサプライヤーを含む、あらゆるステークホルダーにも及びます。例えば、自社内の賃金や労働環境は法に遵守しており問題がなくても、自社のサプライヤーで労働環境違反などの人権侵害があると自社にもその責任は及んできます。

 

 

(2) 機会領域を捉える:事業活動と、地域社会やコミュニティの抱える課題とを結び付け、共有価値を創出する動きもあります。リスク領域への対処が、新たな社会問題が起きるのを防ぐ取り組みなのに対し、こちらは社会問題の解決に向けて積極的に関与し価値共創を行う取り組みと言えます。例えばユニリーバの人権キャンペーンは、自社を“Force for Good”(「善の力」)としてブランディングすることで、同じ理念を持った顧客や支援者の強力な支持を得ました。このキャンペーンは、十分な栄養を供給することや、健康で幸福な社会づくりを啓蒙するものです。また、広告活動を通じて、差別をなくし、多様性を重視する文化を醸成するよう、リーダーやビジネス・パートナーに呼びかけています(The Unilever Compass for Sustainable Growth, 2021)。

 

企業がその財務的利益のみを追求するのではなく、人権問題や公衆衛生の課題解決といったように、地域やコミュニティに根差し、その社会にとって善いものと認められることを、企業価値向上の機会と捉えるアプローチです。

 

HRDDの方針とプロセスを確立するには、時間も労力もかかります。しかし、長期的な視点で考えると、企業の持続的成長はHRDDのプロセスなしに達成できません。世界経済フォーラム(2022年)によると、社会問題は、気候変動危機と並んで企業が今後予測すべき最も重大なリスクとして位置づけられています。財務的成長といった近視眼的な目標だけに捉われてしまうと、数字となって顕在化しないリスクや機会を見落とすことになりかねません。次回以降、企業の取組み事例も踏まえつつ、具体的にどのような対応やアプローチが求められるのかについて、見ていきます。

 

 

本連載は「人権デューデリジェンス(HRDD)」について数回にわけて解説いたします。

 

 

当該レポートは、LinkedInでも発信していますので(LinkedIn でNRI Manilaと検索)、是非ご覧ください。

 

 

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Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd Manila Branch

住所:26th Fl., Yuchengco Tower, RCBC Plaza 6819 Ayala cor Sen. Gil J. Puyat Avenues, 1200 Makati

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