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企業の社会的側面と取組みを推進するKPI(重要業績評価指標)【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第39回】

フィリピンビジネス通信 ~コンサルの視点から~

「サステナブルなビジネス」を実現するために 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。前号に引き続き、コロナ禍で注目が集まる「サステナビリティ」の社会的側面を、HRセクターに所属するDiane Cordova が解説します。

 

 

 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店プリンシパルコンサルタント・HRセクターヘッド。オーストラリア・アワード奨学金を獲得し、シドニー大学にて人的資源管理・労使関係の修士号を取得。人事・組織開発を専門とし、企業の変革を支援している。

Diane Cordova

 

 

前回の連載では、サステナビリティ経営に求められる社会的責任の高まりについて、人的資本や人権デューデリジェンス(HRDD)の考え方とあわせてお伝えしました。昨今、投資家・経営者・従業員など企業のあらゆるステークホルダーが、自らの事業が地域社会に与える影響について、これまで以上に認識を高めることが迫られています。企業における労働のあり方、サプライチェーン全体における人権の尊重、さらには地域社会へのかかわりなど、ESGの社会的側面は多岐にわたります。

こうした社会的影響について、主要業績評価指標(KPI)を設定することで、方針や取組みを経営に反映させる動きが出てきています。KPIには、人権侵害や違法な労働環境といったリスク要因の排除だけでなく、ステークホルダーや地域社会にどれだけ高い付加価値を提供できているかも含まれます。今回は、労使関係・労働環境、DEIB(Diversity, Equity, Inclusion and Belonging:多様性・公平性・包摂・帰属意識)、HRDDといった社会的側面における3つの主要テーマについて、フィリピンの先進企業の実例から考えていきます。

 

 

労使関係・労働環境

 

労使関係・労働環境における重要な要素として、物理的および精神的両面での安全、公正な賃金、適正な労働時間、ヘルスケアの提供、適切な休憩時間の確保があります。さらに、メンタルヘルス支援、ワーク・ライフ・バランス、キャリアアップの機会といった問題に取り組むことは、従業員の幸福と満足を育むというコミットメントを示すものです。

SMグループでは、SMライフ・インテグレーション・プログラムと呼ばれる包括的なプログラム(オンラインでのメンタルヘルス・カウンセリングや、ファイナンシャル・ヘルス・コース)を提供しています。また、アヤラ社、BDO社、アボイティス・エクイティ・ベンチャーズ社では、24時間365日心理療法サポートを提供する機関との提携を通じて、従業員のメンタルヘルスケアに注力しています。

適切な安全対策やリスク予防・管理、研修プログラムは、従業員の事故や怪我を防ぐだけでなく、組織による配慮や相互尊重の文化醸成につながります。メラルコ社の「ターゲット・ゼロ」プログラムは、年次初出勤日に実施する安全キャンペーンや展示会などを通じて、事故件数の削減を目指してます。アヤラ社は、平常時からの危機管理に加えて、災害時において、危機を迅速に特定し従業員や主要なステークホルダーからの支援要請に対応するためのモバイルアプリを開発しました。

労働者の権利の尊重と擁護もまた、極めて重要な側面です。企業は労働者の権利を支援し、従業員があらゆる不利益を被ることなく懸念やリスク事項を伝達する方法を導入する必要があります。メラルコ社、BDO社、メトロ・パシフィック・インベストメント社などでは、内部告発時の告発者の保護についての方針を行動規範に導入しています。アヤラ社、アボイティス・ベンチャーズ社などでは、グリーバンス・メカニズム・ハンドリング(通報や苦情処理・対応)の強化に取り組んでいます。

労使関係・労働環境の領域におけるKPIの例としては、以下が挙げられます:
- 従業員の退職率
- 死亡・事故件数の削減、事故によって発生する損失時間の削減
- ESG、デジタル化などに関する研修時間

 

 

DEIB(Diversity, Equity, Inclusion and Belonging:多様性・公平性・包摂・帰属意識)

 

企業には、活気的で創造的な組織文化の醸成や、公平で差別のない組織の本質的価値を追求するために、多様性を確保し推進することが求められます。機会均等を確保し、雇用・昇進・報酬において差別・偏見を排除することは、DEIBを達成する重要なステップです。
先進的な取組みのひとつに、メラルコ社の「#Mbraceプログラム」が挙げられます。このプログラムでは、2030年までに女性比率を40%まで高め、ジェンダー平等を推進する組織を目指しています。これは、国連のSDGs17の目標のうち、(5)ジェンダー平等の実現や(10)不平等の削減につながるものです。ネスレ社やアヤラ社では、同性パートナーシップや家庭内パートナーシップ、無利子教育ローン、育児休暇などを法定以上の水準で福利厚生として提供することで、平等と多様性を高い水準で推進していくことを明確にしています。アボイティス・ベンチャーズ社ではさらに、これらの基準をパートナー・サプライヤーにまで要求・適用しています。

DEIBの領域におけるKPIの例としては、以下が挙げられます:
- 幹部・管理職ポジションに占める女性やマイノリティ(少数派)グループの割合
- 平均給与比率(男女の平均給与比率)
- ダイバーシティ&インクルージョンの目標(能力主義、機会均等、公平な待遇・評価など)に基づく後継者育成計画や昇進

 

 

HRDD(人権デューデリジェンス)

 

効果的なHRDDは、リスクの最小化に留まらず、投資家、従業員、地域社会などあらゆるステークホルダーとの良好な関係構築と、企業ブランドの長期的価値向上に資するものです。HRDDの制度化・プロセスの強化については、フランス、ドイツ、ノルウェーといったヨーロッパ諸国や、アメリカ、オーストラリアなどで先進的な取組みがなされています。フィリピンにおいては、HRDDを制度化する取り組みはまだ少ないものの、国際的な基準が確立されるにつれて、その必要性はますます高まっていくと考えられます。
メトロ・パシフィック・インベストメント社は、児童労働、強制労働、人身売買の防止など、人権保護に関する方針を定めており、特に有料道路事業では、児童保護方針を通じて、児童の権利原則をビジネス慣行に組み込んでいます。 アヤラ社、メラルコ社、アボイティス社などでは、HRDDの方針を自社だけでなく、自社のバリューチェーン上のパートナー企業・サプライヤーといった関係組織にも広げています。

HRDDの領域におけるKPIの例としては、以下が挙げられます:
- 自社内およびサプライチェーン全体で実施される人権リスク評価の頻度
- サプライチェーンの透明性(監査されたサプライヤーの割合、高リスクと特定されたサプライヤーの割合、人権基準を遵守しているサプライヤーの割合など)
- 人権侵害に関連する(解決に要した)苦情報告件数

社会的領域における取組みとKPIは、サステナビリティ経営を追求するための羅針盤です。規制の遵守・リスク軽減に留まらず、先進的な企業では、従業員や意識の高い消費者、倫理観の高い投資家を惹きつけ、長期的な関係構築や価値創造にまで焦点を当てた取組みを推進していることがわかります。企業と社会の相互関係の深まりとともに、企業におけるこうした取組みは持続可能な社会の実現のために必要不可欠なものになると考えられます。

 

 

本連載は「人権デューデリジェンス(HRDD)」について数回にわけて解説いたします。

 

 

当該レポートは、LinkedInでも発信していますので(LinkedIn でNRI Manilaと検索)、是非ご覧ください。

 

 

●本リサーチおよびコンサルに関するお問合せはこちらへ

Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd Manila Branch

住所:26th Fl., Yuchengco Tower, RCBC Plaza 6819 Ayala cor Sen. Gil J. Puyat Avenues, 1200 Makati

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フィリピンビジネス通信 前回のコラム

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