ブログ
食べる
経済ニュース
コラム
求人情報

HOME >  フィリピンのコラム  >  職場におけるジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンの推進【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第40回】

職場におけるジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンの推進【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第40回】

フィリピンビジネス通信 ~コンサルの視点から~

「サステナブルなビジネス」を実現するために 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。前号に引き続き、コロナ禍で注目が集まる「サステナビリティ」の社会的側面を、HRセクターに所属するDiane Cordova が解説します。

 

 

 

Diane Cordova
野村総合研究所(NRI)マニラ支店プリンシパルコンサルタント・HRセクターヘッド。オーストラリア・アワード奨学金を獲得し、シドニー大学にて人的資源管理・労使関係の修士号を取得。人事・組織開発を専門とし、企業の変革を支援している。

 

 

ESG(環境、社会、ガバナンス)の社会的側面は、企業がいかに倫理的で、持続可能であるかを評価する上で極めて重要です。前回の連載では、労使関係・労働環境、DEIB(Diversity, Equity, Inclusion and Belonging:多様性・公平性・包摂・帰属意識)、HRDDといったテーマを取り上げ、フィリピンの先進企業における社会的課題に対する取り組みとその重要業績評価指標について紹介しました。今回は、DEIB、特にジェンダー・ダイバーシティとインクルージョン(D&I)に焦点を当て、D&Iを推進し達成するために企業がどのような取り組みを行っているかをみていきます。

ジェンダー・ダイバーシティとは、ダイバーシティ(多様性)とエクイティ(公平性)の中間に位置する概念で、異なる性別間での公平性を確保することを意味しています。一般的には、男女比率として数値化されます。一方、人員構成が多様であっても、必ずしも包摂的でない企業も存在します。そのためダイバーシティとインクルージョン(D&I)は、ほとんどの場合、同時に取り上げられるものとして認識されます。インクルージョンは、年齢、性別、人種、経歴などに関係なく、一人ひとりの特性や価値を認める考え方です。この考え方は、組織が、個々人に自分らしく活躍できるための場を提供する土台となるもので、帰属意識の高まりにも寄与します。このように、ジェンダー・ダイバーシティやインクルージョンの推進は、コンプライアンス順守やリスクの低減にとどまらず、長期的で持続可能な成長機会を享受することにもつながります。

 

 

D&Iポリシーと指標

 

2018年、ISO30414(人的資本に関する情報開示のためのガイドライン)が公表されたことは、企業のサステナビリティ経営状況について、人的資本の観点からより高い透明性での情報開示がなされる契機になっています。このガイドラインには、年齢、性別、障がいの有無などからみた従業員構成の多様性や、幹部・管理職層でどれだけ多様性が確保されているかを示す項目も含まれます。

幹部・管理職層に占める女性の割合について、ASEAN諸国の平均が25%であるのに対し、フィリピンは33%でASEAN諸国の中でトップに位置します。また、フィリピンは人間開発指数(HDI)では世界平均を下回っていますが、ジェンダー開発指数(GDI)では世界平均を上回っています(UNDP、2021年)。GDIの世界ランキングでは世界8位で、グループ1(分類はグループ1~5で行われ、1はジェンダー平等が最も達成されていることを示す(GDI、2019年))に分類されています。このことから、フィリピンの企業組織にとって、ジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンは、そこまで達成が困難ではない要素指標のように思われます。フィリピンの上場企業はSECから年次財務報告書(SEC Form 17-A)とともにサステナビリティ報告書を提出するよう求められており、その中で従業員の男女比率や管理職・幹部に占める女性の割合について、定期的に報告することが義務付けられています。以下の表は、フィリピンの代表的な企業のサステナビリティ報告書におけるジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンに関する状況を示しています。

 

出所)野村総合研究所サステナビリティ報告書(2022)よりNRI作成

 

ジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンを推進する取り組み

 

国連の17の持続可能な開発目標(SDGs)の5番目に掲げられている目標は、ジェンダー平等の達成や、女性のエンパワーメントを目指すものです。企業や組織における具体的な取り組み目標には、次のようなものが挙げられます。(The Global Goals, 2023):

・女性と少女に対する差別をなくす
・リーダーシップと意思決定への参画を確実にする
・経済資源、財産所有権、金融サービスにおいて平等な権利を確保する
・テクノロジーによって女性のエンパワーメントを促進する
・ジェンダー平等のための政策策定や、強制力のある法律を採択し施行する

上場企業においては、ESGへの取り組みなどSDGs推進へのコミットメントを示す動きが顕著にみられます。取り組みの定期的なモニタリングや、各企業が特に重視するSDGs目標達成のためのプログラム導入がその一例です。例えば、職場におけるジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンを推進しているフィリピンの主要企業とその取り組みは、次のようなものがあります。

・アボイティス・エクイティ・ベンチャーズ(Aboitiz Integrated Report, 2022による)

  - 意識啓発:女性月間、プライド月間などの説明会や特集記事

  - ポリシー策定:セクシャル・ハラスメント防止、セーフ・スペース法、取締役会におけるダイバーシティ、差別禁止(サプライヤーやビジネス・パートナーにも適用)など



・アヤラ・コーポレーション(Investor Relations Integrated Report , 2022による)

  - 雇用と昇進の機会均等:業績に基づく昇進基準(業績/能力、スキル/コンピテンシー)

  - 学習とキャリア開発への平等なアクセス:男性(48.4時間)と女性(48.9時間)の平均研修時間を平等に確保



・メラルコ(Combined Annual and Sustainability Report, 2022による)

  - ダイバーシティ&インクルージョン方針(「#Mbrace」プログラム):女性電気技術者を確保するための研修や奨学金など様々な取り組みを通じて、女性の割合を2023年の23%(※23%という数値も、世界のエネルギー部門平均の2倍)から2030年までに少なくとも40%にまでに高める目標を設定

  - 女性の修学支援、金銭的支援(「MPowHER」プログラム):カンルーバン、ヌエヴァ・エシハ、ロスバニョスの大学と提携し、電気技術者や電気エンジニアを目指す女性を支援



ジェンダー・ダイバーシティとインクルージョンの推進は、組織パフォーマンスとの相関関係からみても、多くのメリットがあることが明らかになっています。

・パフォーマンスとイノベーションの向上:多様な視点や考え方が、より良い問題解決やより効果的な意思決定につながる。
・企業文化と組織のレジリエンスの向上:ダイバーシティとインクルージョンをめぐる基準やガイドラインの進化に備えることができる。
・従業員のエンゲージメントと心理的安全性の向上:一人ひとりのユニークな貢献を受け入れることで、前向きで協力的な職場環境を醸成し、モチベーションと定着率を高める。

調査によると、多様な背景や経験を持つ人々で構成される組織は、より良い意思決定を行い、イノベーションを起こし、より効果的に問題を解決するとされています。企業にとってD&I推進は、人口動態や社会の要請といった変化に柔軟に対応し、持続可能で長期的な成功機会を追求するために欠かせない取り組みだと言えます。

 

 

本連載は「サステナビリティの社会的側面」について数回にわけて解説いたします。

 

 

当該レポートは、LinkedInでも発信していますので(LinkedIn でNRI Manilaと検索)、是非ご覧ください。

 

 

●本リサーチおよびコンサルに関するお問合せはこちらへ

Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd Manila Branch

住所:26th Fl., Yuchengco Tower, RCBC Plaza 6819 Ayala cor Sen. Gil J. Puyat Avenues, 1200 Makati

メールアドレス:
[email protected]
[email protected]

 

野村総合研究所シンガポールマニラ支店の企業情報はこちらから。

 

広告

フィリピンビジネス通信 前回のコラム

野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。前号に引き続き、コロナ禍で注目が集まる「サステナビリティ」の社会的側面を、HRセクターに所属するDiane Cordova が解説します。

新着コラム

激甚化する自然災害(頻発する豪雨や台風等)や更新される過去最高気温等にみられる通り、気候変動による影響が生じ始めています。こうした気候変動による影響を最小化させるためにも、2015年のCOP21パリ協定以降、温室効果ガス排出を抑制し気温上昇の進行を緩やかにする「緩和策」(再生可能エネルギー設備導入等)と、社会経済の在り方を気候変動に適応させていく「適応策」(気候変動の影響による被害を回避・軽減させる防災・減災技術の導入等)が各国で進められています。最終回である今回の記事では、フィリピンにおける気候変動適応策の取組みについて解説します。
日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議で発表された「アジアゼロエミッション共同体構想」と「日ASEAN次世代自動車産業共創イニシアティブ」の両方に関わるBESS(Battery Energy Storage System)関連ビジネスは、フィリピンにおいても需要側(EVや系統用蓄電池、スマートグリッド等)と供給側(ニッケルの生産)の両面から成長する見込みです。
2023年に「ASEAN Matters: Epicentrum of Growth」がASEANの標語として掲げられている通り、近年ASEANの経済・社会は著しく成長しています。また、デジタル技術の革新とコロナ禍による生活様式の変化を機に、Grab 等に代表されるようにデジタル技術を活用した新しいデジタルインフラも普及し、ASEANにおける生活・事業環境が大きく変化しています。
昨年2023年は日ASEANの経済友好協力50周年の記念すべき年として、将来を見据えた新しい時代の日ASEANの経済共創の方向性を示す指針が多く示された年でした。昨年8月には日ASEAN経済大臣会合にて「日ASEAN経済共創ビジョン」が、12月には日ASEAN特別首脳会議にて「日ASEAN友好協力に関する共同ビジョンステートメント」が発表されました。
野村総合研究所(NRI)シンガポールマニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピンの各業界調査や事業戦略策定支援、組織・人財マネジメント等に関するコンサルテーションを行っています。今号では、フィリピンの2024年経済成長見込み、そして2040年にかけての長期的展望について解説します。
フィリピン不動産賃貸ポータルサイト  |   フィリピン求人 ジョブプライマー  |   BERENTA:Find the condo that suite you
ページトップに戻る