進む再生可能エネルギー導入と、「調整力」に対するニーズの高まり
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、ASEAN各国で太陽光発電等の再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入が進められています。フィリピンにおいても、再エネの導入はCAGR7.8%という非常に高い成長率で導入が進められており、2032年までに約6GW程度の太陽光発電設備の追加導入されることが予測されております。
一方で、太陽光や風力など一部の再エネは発電量が季節や天候により左右され、コントロールが困難であるという特徴を有するため、需要と供給のバランスが崩れた際に停電等のトラブルを発生させるリスクがあります。そこで、系統を安定的に運用しながら再エネを大量導入し主力電源化していくために、不安定な発電量をカバーすることのできる「調整力」の確保が不可欠となります。その調整力の一つとして近年BESS(Battery Energy Storage System)の導入が積極的に進められています。 フィリピンにおいても、2023年4月よりサンミゲル社が欧米企業(ABB社やFluence社等)と協業しながらバタアン州リマイ町において総発電能力90MWhのBESSの操業を開始しました。これは、サンミゲル社が現在導入を検討している全国32箇所の蓄電池施設の一部(合計1,000MWh)で、完成すれば世界有数のBESS技術利用拠点になる見込みです。
今後更なる盛りあがりを見せるBESS関連ビジネス
BESS関連ビジネスとして、フィリピンにおいては、需要側(EVやスマートグリッド事業等)と供給側(原材料精算やバッテリー製造等)の両面からニーズが高まってくることが予想されております。前者の需要側のEV事業については、現状フィリピンにおけるEVの普及率は1%以下とASEANの他国(タイでは10%以上)と比較すると大きく遅れています。しかし、2024年以降のEVのロードマップを示すEVIDA(Electric Vehicle Industry development Act )とCREVI(The Comprehensive Roadmap for the Electric Vehicle Industry )においても、2040年までに最低10%のEVの導入を達成する目標を掲げ、特に公共交通部門でのEV利用を優先的に支援することが表明されています。その実現に向けて関連製造業に対する税制優遇やEV完成車やEVチャージ設備に対する輸入関税免除、電動トライシクルの購入者に対する補助金制度等も実施されていく見込みです。
一方で、後者の供給側の高まりによってもBESS関連ビジネスは成長していく見込みです。フィリピンはインドネシアに次ぐ世界2位のニッケル鉱石生産国であり、バッテリー製造に必要となるニッケル等の鉱物資源の国内での生産拡大させております。従来、環境規制のために約10年間禁止されていた新規鉱業取引が2021年4月に解除されたことを受けて生産量も増加し世界首位のインドネシアを上回る見通しもあります。こうした情勢も受けて日米比の3カ国首脳会談の共同声明においても、ニッケルを含む重要鉱物の安定供給など経済安全保障の協力が盛り込まれるなど、ニッケルの主要生産国であるフィリピンとのサプライチェーンの強化が取組まれていく見込みです。
上記より、BESS関連ビジネスは、日ASEAN友好協力50周年の特別首脳会議において発表された「日ASEAN次世代自動車産業共創イニシアティブ」と「アジアゼロエミッション共同体構想」の両方に跨る重要なテーマであり、今後より一層この分野での日比協力が推進されることが期待されます。
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