『労働協約交渉のポイントは?』
前回は会社側と労働協約を締結する労働組合が決まるまでの手続きについてお話させていただいております(前回のフィリピンあらかると に掲載されていますので、見逃された方は是非ご覧ください)。今回は労働組合と労働協約締結に向けてどのような交渉を行うのかについてお話しいたします。
今月の事例
労働協約締結のための交渉の流れ>
労働協約締結のための独占的権限を有する労働組合が決定したあとの、具体的な労働協約締結のための交渉の流れは以下のとおりです。
(1) 一方の当事者から他方当事者に対する提案書の提出(労働組合がこれを行うことが一般的です)
(2) 受領してから10日以内に他方当事者が返答
(3)双方の提案内容に相違がある場合、いずれかの当事者が10日以内に協議を開始することを要求し、協議を行う
<会社側に求められる交渉態度>
では、誠実に交渉するとはどういうことでしょうか。フィリピンの労働法では、誠実に交渉する義務に違反した場合、不当労働行為であると認定されますので、これまでにどのような場合に不当労働行為であると認定されたのかが参考になるでしょう。
(1)交渉を開始しないこと、出席しないこと
誠実に交渉する義務が雇用主にはありますから、労働組合との交渉を開始しない又は設定された話し合いの場に出席しないことは、誠実に交渉する義務に反します。なお、仮に雇用主側が労働組合の登録を取り消しを求めて手続を行っているとしても、登録の取り消しがあるまではやはり交渉に応じる義務があるとした判例があります。また、会社の業績が悪いことを理由に交渉自体に応じないことも許されません。
(2)労働協約で決めるべき事項を決めないこと
先に述べましたように、労働協約は賃金、労働時間、及び、不満又は同契約に関する疑問の調整に関する提案を含むそのほかすべての雇用条件について定めることとされていますので、これらの事項は義務的交渉事項と考えられており、交渉の対象から外すことは許されません。ちなみに、義務的交渉事項の例としては、①賃金その他の手当、②労働時間及びワークシフトを含む就労日、③休暇、④ボーナス、⑤年金及び退職プラン、⑥年功制度、⑦転勤、⑧整理解雇等が含まれます。
(3)不誠実に交渉すること
誠実に交渉する義務がある以上、不誠実な態度で交渉することは当然違反になります。これまでの判例で不誠実な交渉態度であると判断されたものとしては、理由もなく交渉を遅らせたり、合意に至ろうという意図を持たずに交渉したり(surfacebargaining)、以前に合意した事項について撤回したり、この条件を飲まないのであれば認めないという態度で交渉すること(Take-it-or-leave-it)などが挙げられます。他方、譲れない事項について譲らないという態度自体は不誠実に交渉していることには当たりません。
なお、上記は会社側が不誠実に交渉に臨んだとされた事例ですが、労働組合にも同様に誠実に交渉する義務がありますので、不誠実に交渉に臨んだとみなされた場合には不当労働行為に該当します。たとえば、あまりにも不当な条件を持ち出す場合(blue sky bargaining)や、交渉が継続しているにもかかわらずストライキを行うことなどは許されません。
結論
本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。
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