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事業譲渡と従業員の地位【フィリピン法律あらかると第九十七回】

『事業譲渡と従業員の地位』


今月の事例

Q.当社は不振となった会社の事業再編のため、一事業部門を他社に譲渡することを計画しています。当該事業部門に従事する従業員も同時に転籍させることは可能ですか?
 
 
<フィリピンにおける事業譲渡の方法>
 
 
フィリピンにおいて法人形式で行っている事業を第三者に対して譲渡する場合に、一般的には資産譲渡(Asset Sale Transaction)の方法が用いられます。なお、いわゆるM&Aの手法としては、株式譲渡、すなわち、会社の株式を譲渡する方法もありますが、この方法による場合は事業部門のみを対象として譲渡することができませんので、本件のような場合には利用することができません。

資産譲渡の方法により一事業部門を売却する場合、譲渡会社と譲受会社はAsset Purchase Agreement(資産譲渡契約)を締結します。同契約書においては、譲渡の対象を明示する必要があり、事業部門の売却の場合は、その事業を構成する資産(例えば、工場や生産に必要な知的財産や契約上の地位等)を明示列挙して、譲渡の対象を明確にする必要があります。

ここで、従業員も資産譲渡契約における譲渡の対象とできるかが問題となりますが、資産譲渡契約において譲渡できるものは資産のみに限られ、従業員を譲渡対象とすることはできません。あくまでも、従業員が同意した場合にのみ従業員は譲受会社に転籍することになります。

もっとも、資産譲渡契約により一事業部門を譲り受けた会社が自前の従業員のみではその事業を継続することができないことが考えられます。また、事業を譲り渡す会社としても当該事業に従事した従業員が譲受会社にて雇用されることを望む場合もあります。そのような場合には、双方の会社間において、当該従業員の雇用に関する別途の合意を行う必要があります。具体的には、譲受会社における給与等の雇用条件や譲渡会社における勤続年数の引継ぎの有無等について定めたうえで、 譲受会社への転籍を勧告することとなります。

もっとも、本件のように事業再編のために事業譲渡を計画している場合、事業譲渡の対象となる部門に従事していた従業員については譲受会社に転籍してほしいと譲渡会社が考えていることが多いのではないかと思われます。先に述べましたように、譲受会社への転籍を勧めたにもかかわらず転籍に応じなかった従業員を譲渡会社が解雇することは可能でしょうか。この点、単に転籍の勧告に応じなかったことを理由として解雇することはできません。但し、労働法に定める解雇事由に該当する場合には解雇が可能です。労働法は、事業の更なる損失を防ぐために必要な場合には、従業員を整理解雇できるとしています(retrenchment)ので、この場合に該当するときは、従業員を解雇することが可能です。
 
 

結論

A.資産譲渡の方法による事業部門の譲渡の場合、従業員の同意を得ずに転籍させることはできません。

 

本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha, Ancheta, Peña & Nolasco法律事務所の監修を受けております。



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