『約因とは何ですか?』
今月の事例
<約因(Consideration/Cause)とは?>
日本で契約書を作成する場合、通常のケースでは冒頭に当事者を明示した後、直ちに第1条以下の条文を記載することがほとんどだと思います。ところが、フィリピンで契約をする場合、冒頭の当事者の明示の後にすぐに条文の内容を規定するのではなく、前文のようなものが記載されていることをよく目にすると思いますが(Preambleと記載されていたり、WHEREASから始まる文章のことです)、これは法律上これらを必要とする規定があるためです。フィリピン民法1318条では契約の不可欠の要素として(1) 当事者の合意、(2)契約の対象物の存在、および、 (3)合意された義務の「原因」が必要であると規定されています。この「原因」が一般的に約因と言われるものになります。これら三つの要素のうち一つでも欠けると合意はなかったものとみなされます。
また、民法1350条において、有償契約における約因は、各契約当事者による物もしくは役務の提供またはその約束と、それに対する役務または利益の提供であると規定されています。よりわかりやすく言いますと、例えば、YがXに対してサービスを提供したことから、XがYに対して料金を支払うというものはここでいう約因ということができます。その他の例としては、Xが財布を欲しいと思っており、YがXから代金の支払いを受けるのと引き換えに財布を引き渡すことを約して売買契約を締結することも約因が存在するということになり、このような約因を契約書の中で記載した上で、実際の合意内容を記載することが必要ということです。
一般的な日本の契約ではいきなり甲は乙に対して商品を売却することを約する、乙は甲に対して代金を引き渡し日から5日以内に支払う、などとすることが多いと思いますが、これだけでは足りず、約因として、乙は商品を購入することを希望しており、甲は代金の支払いがあることを前提に商品を引き渡す、というような文言を記載する必要があるということになります。
もっとも、契約の当事者が契約行為を行う際にはお互いに何らかの意図があって契約をするものと言えますから、契約に至った理由を記載すれば約因があるとなり、上記のような約因がないと判断される場合はあまり想像できないと思います。
そこで、約因がないと実際に判断されたフィリピンの裁判例をご紹介します。最も典型的なケースとしては、契約者が契約はするものの、実際にはその契約内容を実現するつもりがない場合、約因がないとして契約が無効と判断されるというものです。
ある裁判では、養魚池を5万2千ペソで購入する契約が締結されましたが、その買主には全く支払い能力がありませんでした。そこで、裁判所はこの売買契約には約因がないとして無効としました(G.R. No.L-25777)。
結論
本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。
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