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フィリピンで株式会社を作るには?【フィリピンで役立つ! フィリピン法律あらかると 第三回】

『フィリピンで株式会社を作るには?』


  前回はフィリピンでビジネスを始めるにあたって検討すべき事項について簡単に触れさせていただきました。(ウェブ をご覧ください)。今回は前回の検討を経ていよいよビジネスを始めるに当たって100%日本資本で株式会社を設立することになった場合についてご説明させていただきます※1。
 
フィリピンで株式会社を設立して事業を開始するに当たって必要となる手続としては、SECへの登録申請が最も重要となりますが、そのほかにも以下を挙げることができます。
① 内国歳入局(BIR)への申請
② 中央銀行への登録申請
③ バランガイ・クリアランスの取得申請
④ 事業許可書の取得申請
⑤ 社会保険手続の申請
SECへの登録申請を含め、これらの具体的な必要書類や手続につきましては、ウェブ版に簡単に記載いたしますが、紙面ではフィリピンの会社法が定める法人設立に関して検討すべき事項のうち、重要なポイントに焦点を当ててご説明させていただきます。 

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※1 フィリピンでビジネスを行うにあたっての進出形態としては、現地法人を設立することのほかに、日本法人の支店の設立、駐在員事務所の設立、パートナーシップの設立、個人での事業者登録などもあります。

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2種類の定款

日本の株式会社の場合、会社の基本的な事項についての取り決めは定款にて行われますが、フィリピンの株式会社の場合、会社の基本的な取り決めとしては定款(Articles of Incorporation)と付属定款(By-laws)の2種類の定款が存在します。定款及び付属定款で定めるべき事項は、会社法で以下のように定められています。
 
定款で定める事項
 
①社名、②会社の目的、③本店所在地、④会社の存続期間(最長50年)、⑤発起人の名前、国籍、住所、⑥取締役の人数、⑦設立時の取締役の名前、国籍、住所、⑧授権資本額、授権株式数、額面株式の場合、その額面、当初の株式引受人の名前、国籍及び住所等、⑨その他発起人が必要と認める事項
 
付属定款で定める事項
①取締役会に関する事項、②株主総会に関する事項、③株主総会の定足数に関する事項、④株主の議決権の代理行使に関する事項、⑤取締役、役員及び従業員に関する事項、⑥取締役の選任に関する事項、⑦取締役以外の役員の選任に関する事項、⑧付属定款の違反の場合の罰則に関する事項、⑨株券発行の方法に関する事項、⑩その他事業遂行のために必要と思われる事項
 
いずれも会社の重要事項についての定めであると共に、作成及び変更の際にはSECへの提出が求められる事項でもありますので、これを定めるに際しては注意を払う必要があります※2。
そこで、かかる定款及び付属定款記載事項のうち、特に重要と思われる事項について説明させていただきます。

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※2 一般的にはSECへの登録申請時に定款と付属定款の両方を提出しますが、付属定款については設立後に提出することも可能です。

資本・株式について

定款には、授権資本、並びに、株式の引受人の名称、国籍、引受株式数及び払込資本を記載する必要があります。ここでは、授権資本(Authorized Capital)、引受資本(Subscribed Capital/ Outstanding Capital)、払込資本(Paid-up Capital)という3種類の資本について区別することが必要です。授権資本とは、会社の株主が引き受け、支払われるべき最大の金額として定められた金額を指します。また、引受資本とは、授権資本のうち、株主が引き受けた部分を指します。払込資本とは、株主により実際に払い込まれた資本の額をいいます。若干わかりにくいため、もう少し説明しますと、授権資本は、会社が株式を発行して株主から払い込みを受けることのできる資本の額の最大限をいい、引受資本は株主が既に引き受けた株式について全額の払い込みを行った場合の資本額を指すと言えます。また、日本の株式会社とは異なり、フィリピンの株式会社の株式引受人は引き受けた株式の全額を払い込む必要はなく、引き受け契約において残額の支払時期が定められているか、払い込み時期が定められていない場合には取締役会が要求したときに払い込むこととされていれば、最低その4分の1を支払えばよいこととされており、実際に払い込まれている資本の額が払込資本となります。これら3種の資本について整理すると以下のとおりとなります。
 
<授権資本>(25%以上)<引受資本>(25%以上)<払込資本>
 
なお、SEC登録の際の手数料は授権資本の金額により定められていること、また、授権資本を変更するには定款の変更が必要となることにご注意ください。

日本人がフィリピンで事業をしようとしても、 すべての事業を行えるわけではありません。 というのも、一部の事業についてはフィリピン人のみしか行えなかったり、フィリピン人とパートナーを組んで共同で事業を行うとしても、 外国人の投資割合が決まっている業種もあるからです。 ですから、まずはあなたが行おうとする事業ができるかどうか、できるとして、外国人の投資割合がどれくらいまで許されているのか について検討する必要があります。この点については、1991年外国投資法という法律が規定を置いており、 外国資本による投資が規制又は禁止される業種は、いわゆるネガティブリストとして公表されています。このネガティブリストはたびたび改正されており、2012年10月に改訂された第9次ネガティブリストが最新版となりますが、常に改訂がなされていないかについて、事業開始を検討する 前に確認する必要があるでしょう。
 このネガティブリストには禁止・規制業種がリストAとリス[トBに分かれて規定されています。リストAは外国人による投資や所有がフィリピンの憲法や特別法により禁止又は規制されているものを列挙しており、リストBは安全保障、防衛、公衆衛生、公序良俗保護や中小企業保護の観点等から規制されているものを列挙しています。実際のネガティブリストは多くの業種を挙げていますが、以下の図表においてはリストAとBに掲げられているもののうち、主要な業種について例示させていただきました。

会社の役員について

会社の設立に当たっては、SEC登録申請及び定款において発起人、設立時取締役、設立時財務役を記載する必要があります。そして、登録申請及び定款への記載は必要ないものの、設立前に会社成立後の役員についてもあらかじめ定めておくことがすぐにビジネスを開始するに当たっては必要です。そこで、これら役員について説明いたします。
 
発起人・設立時財務役     発起人とは法人を作成した者として定款に規定される法人の当初の株主のことを言い、5名以上15名未満必要であり、いずれも自然人であり、過半数がフィリピンの居住者※3である必要があります。なお、設立当初の株主のすべてが発起人となる必要はありません。また、発起人のうち1名が設立時の財務役として選任される必要があります。この財務役が設立される会社の資本金が払い込まれる銀行口座の名義人となり、SEC登録に当たっては、資本金の払い込みがなされたこと等についての証明書を発行することになります。
 
取締役
    取締役は5名以上15名未満である必要があり、うち過半数がフィリピンの居住者であることが必要です(フィリピン人である必要はありません)。なお、各取締役は1株以上を所有していることが必要です。発起人が当初の取締役となることが一般的です。
 
秘書役
    秘書役とは、日本人にとってはなじみのない存在ですが、フィリピン法人においては、取締役会や株主総会の議事録を作成したり、株主名簿を保管したり、会社の社印を保管、捺印したり、その他会社の書類について署名を行ったりする機関であり、会社の運営上、非常に重要な役割を果たしています。秘書役はフィリピン人である必要があります。(取締役である必要はありません)秘書役は会社が外部に出す書類を作成し、署名する権限を有する機関であり、会社の運営に際して非常に大きな役割を占めています。そのため、秘書役を誰にするかということは重要な問題であるといえます。秘書役はフィリピン在住のフィリピン人であることが要請されており、そのような役割を任せられる信頼できるフィリピン人がいる場合はそれに越したことはありませんが、そうでない場合には弁護士等の専門家に依頼することが望ましいと言えるでしょう。もっとも、一度選任すると変更しにくいということもありますので、弁護士等に依頼する場合であっても慎重に選ぶ必要があります。
 
財務役
    財務役も日本人にはなじみの薄い存在ですが、会社の金銭の管理をすると共に、その出入りについての記録を保管する責任を有する機関です。財務役はフィリピン人である必要はありませんが、フィリピン居住者である必要があります。
 
社長
    社長は会社の代表者であり、取締役である必要があります。社長が秘書役または財務役を兼任することはできません。

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※3 通常、SECはこの居住者要件の確認をあまり行いません。しかし、外国人である場合、(i)移民登録証明書、(ii) 特別投資家居住ビザ(SIRV)、(iii)外国人登録証明書または(iv)数次入国ビザを有する者は居住者であると判断されます。

法人設立の際に必要な手続き

それでは、以下に具体的な法人設立の際に必要な手続きについて簡単にまとめさせていただきます。
 
1.証券取引委員会(SEC)への申請
SECへの申請に際しては、様式F-100を提出することが必要であり、ここには会社の名称、外資の資本割合、会社の目的、本店所在地、授権資本、引受資本、払込資本等の記入が求められる他、以下の書類の添付が求められます。なお、申請書には公証人による公証が求められます。
① 社名確認書(Name Verification Slip)
② 定款及び付属定款
③ 預金証明書(銀行が発行)
④ 送金証明書(銀行が発行)
⑤ 設立時財務役宣誓書
すべての書類の提出後、約1から2週間で登録証書が発行されます。
 
2.バランガイへの申請
本店所在地が存在するバランガイから許可証を取得する必要があります。この許可証の取得のためには、SECの登録証書及び賃貸契約書の写しを添付した上で申請する必要がありすべての書類の提出後、約1日から2日で許可がなされます。
 
3.事業許可証(Mayor’s Permit)の申請
さらに本店所在地が存在する地方自治体からも事業許可証を取得する必要があります。この許可証の取得のためには、地方自治体により異なりますが一般的には、バランガイ許可証、賃貸契約書、占有許可証、SEC登録証書、定款及び付属定款を添付した上で申請を行う必要があり、すべての書類の提出後、約2週間で許可がなされます。なお、この許可証は毎年更新される必要があります。
 
4.中央銀行への申請
フィリピン中央銀行において外国投資として登録することにより、日本へ配当を行う時や事業撤退時の資本の引き上げの際などに外貨での送金が可能となります。
 
5.BIRへの申請
BIRへの事業者登録が必要となりますので、そのための申請を行います。なお、現在は納税者番号(TIN)がSEC登録の際に発行されますので、そのための手続きをBIRで行うことは不要になりました。
SEC登録証書、定款及び付属定款、事業許可証(またはその申請書)、賃貸借契約書、BOIやPEZA認定企業である場合にはその許可証の添付が申請の際に必要であり、株式の発行の際に印紙税の納付が必要となります。すべての書類の提出後、2から4日で手続が終了します。
 
6.社会保障制度Social Security System (SSS)、フィリピン健康保険公社Philippine Health Insurance Corporation (PhilHealth)、持家促進相互基金Home Mutual Development Fund(Pag-IBIG)への申請
従業員を雇用した場合には、上記の社会保険関連の手続きが必要となります。それぞれ書式の様式の提出に加えて、SEC登録証書、定款及び付属定款の添付が必要です。必要書類の提出がなされてからSSSの場合は1週間から2週間で、PhilHealthの場合は1週間で、Pag-Ibigの場合は1日で完了します。

次回は、フィリピンでの相続についてお話しさせていただくことを予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。



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弊事務所は、下記のフィリピンの法律事務所と提携しており、フィリピン進出中の日本企業及び在留邦人の方々に日本語での法律面でのサポートを提供させていただいております。取扱業務:会社設立、企業法務、倒産、労務問題、税務問題、一般民事、相続等


Quasha, Ancheta, Peña & Nolasco
住所: Don Pablo Building 114 Amorsolo Street, 12290Makati City, MetroManila, Philippines
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(左) 弁護士 上村真一郎
(右) 弁護士 鳥養雅夫
(桃尾・松尾・難波法律事務所)
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