「パンって、毎日食べるものじゃないですか。だからこそ、毎日食べても“やっぱりいいな”と思ってもらえるようなパンを焼きたいんです。」
そう語るのは、マカティの日本食スーパー「ニューはっちん」の隣に店を構えるベーカリー&パティスリー「べべ・ルージュ」の三津間さん。
日本で製菓学校を卒業後、学校のコースでフランスへ渡り、約1年間滞在。前半の半年は学校で学び、後半の半年は住み込みで本場の技術を磨いた。帰国後は東京・世田谷のパティスリーで腕を磨き、2007年にフィリピンへ移住した。はっちんの一角でパンを焼き始めたのが、この店の原点だ。
フィリピンに来たころのパン事情
「僕が来たころは、“海外っぽいベーカリー”といえば、ブレッドトークくらいでしたね。あとはパンデサルとかエンサイマダ。昔ながらの甘くて柔らかいパンが主流でした」
パンデサルとは、もともと“塩パン”という意味。
「本来は2回発酵させる製法なんです。でもこっちでは1回だけで仕上げることが多くて、甘みを補うために砂糖を多く入れる。だから少し甘く感じるんですよ」
とはいえ、それを否定するわけではない。
「フィリピンの人は甘いものが好きだし、砂糖を入れることで柔らかくなる。ただ、僕としては発酵で出る“旨味”を感じられるパンのほうが好きなんです」
日本のパンとフィリピンのパン
「たとえば食パン。こっちのものは砂糖が多いんです。うちは多くて8%くらいだけど、たぶんその倍くらい入ってると思います。でも、それが“おいしい”と感じる人が多いから、作る側も合わせるんですよね」
三津間さんは、日本の技術を大切にしつつ、現地の嗜好を取り入れる。
「誰も食べないパンを焼いても意味がないですから(笑)。でも、自分が納得できる範囲で“おいしい”と思えるパンを出したい」
べべルージュの塩パン
軽やかなクロワッサンを目指して
今フィリピンで人気のクロワッサンについて聞いてみた
「うちは折り込みを多くして、バターの量を控えめにしています。バターを入れすぎると、朝からちょっと重い。軽くサクッと食べられるくらいがちょうどいいんです」
べべ・ルージュのクロワッサンは、そんな“日常に寄り添う軽さ”を目指している。朝のコーヒーと一緒に、気負わず手に取れるクロワッサン。三津間さんのパンには、そんな“ほどよさ”が息づいている。
素材と発酵へのこだわり
「フィリピン産のマーガリンは使わないですね。バターフレーバーが強すぎて、うさんくさい味になるんです。だから原則、バターを使います」
小麦粉も日本、ローカル、海外製を使い分ける。
「粉の性格を分かっていないと大変なことになります(笑)。手に入らないときはブレンドして食感を調整します」
酵母もひとつではない。
「フェルメントルヴァン(天然酵母)、インスタント系サワードウ、自家製のレーズン酵母。この3つを使い分けています」
そして三津間さんは、パン作りの核心をこう語る。
「発酵と腐るの違いって、人間にとって“いいか悪いか”だけなんです。おいしいパンって、甘いとか柔らかいじゃなくて、“旨味があるパン”。
味噌汁に出汁があるように、パンにも深さがあるんです」
家でもおいしく
「食パンはスライスして小分けにして冷凍するのがいちばんいいですね。食べるときに霧吹きをしてトースターで焼くと、焼きたてのようになります。冷蔵庫に入れるとパサパサになるし、電子レンジはゴムみたいになる(笑)。どうしても温めたいときは、10秒だけレンジにかけてからトーストするのがコツです。」
続ける力
パンやケーキ作りにおいて安定的に材料を確保するのは難しい。そこが一番気を使うところですね。」
早朝の仕事も、いまは日本製の機械が助けてくれる。
「昔は3時起きでしたけど、いまは5時。だいぶ楽になりました(笑)。でも、人に頼りすぎると品質がぶれる。だから仕組みで安定させています。
止まったら倒れる自転車みたいな商売ですよ(笑)。」
“ちょっとおいしい”がいちばん
「パンは特別なものじゃなくて、日常の中にあるもの。だから、毎日食べてもらえるパンでありたいし、お客様に“いつものパンよりちょっとおいしいな”って思ってもらえたら、それが一番うれしいですね。」
※人気のクロワッサンとブリオッシュは、お持たせにもぴったり。
ひと口で、ほんの少しだけ幸せになれる——そんなパンを、三津間さんは提供し続けている。
Patisserie Bébé Rouge パティスリー・べべ・ルージュ
2025年12月号「お気に入りのパンを探そう! マニラベーカリーさんぽ。」
































