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「時間をかけて、丁寧に」 ── The Peninsula Boutique Christian Lois C. Acostaさんが語るパンの魅力

 

 

「パン作りは、急いでもいいことはないんです。いいパンには、時間が必要なんですよ」

 

そう語るのは、ザ・ペニンシュラ・マニラの「ザ・ペニンシュラ・ブティック」でスーシェフ・ベーカーを務めるクリスチャン・ロイス・C・アコスタさん。地元フィリピンのホテルやベーカリーで修業を積み、クラシックからモダンまで幅広いパン作りの技術を身につけた。
「ペニンシュラに入ったのは大きな転機でした。ここでは、毎日“品質”と“安定”を追求します。それが本当に楽しいんです」

 

 

フィリピンのパン文化と変化

アコスタさんが感じる近年の変化は、“意識の高まり”だ。
「フィリピンの人たちは、いまもパンダサルやエンサイマダのような昔ながらのパンが大好きです。でも最近は、素材にこだわったパン、砂糖の少ないパン、味わい深いパンを求める人が増えています。サワードウなどの酸味のあるヨーロッパのパンにも興味を持つ人が多くなりました」

「ヘルシー志向のパンが好まれるようになってきました」とも語る。

 

「パン改革」はゆっくりと進む

ペニンシュラでは「ブレッド・リフォーム(パン改革)」と呼ばれる取り組みが進んでいる。
「うちでは、ひとつひとつのパンに時間をかけています。天然酵母や質のよい粉を使い、ゆっくり発酵させて風味を引き出す。速く焼くことではなく、丁寧に焼くことが大事なんです」

そのうえで、フィリピンらしさも忘れない。
「たとえばヨーロッパのパンにココナッツやケソ・デ・ボラ(エダムチーズ)を使ったり、カカニン(ライスケーキ)を組み合わせたりします。フィリピンの味を少しずつ取り入れるんです」

 

 

 

 

フィリピンのパンへの思い

「一番好きなのはパンダサルです。シンプルだけど、コーヒーと一緒に食べるのが最高なんです」
そう笑うアコスタさんは、エンサイマダ作りにも特別な思いがある。
「ふわふわで、いろんなバリエーションを楽しめる。ウベやドリアン、ケソ・デ・ボラなど、素材を変えるだけでまったく違う表情を見せてくれるんです」

 

新しいパンの構想

現在は、地元の素材を使った新しいパンの開発にも挑戦している。
「テーブルア(カカオ)やネイティブグレイン(在来穀物)を使ったパンを試作しています。チョコレートとテーブルアを組み合わせたデニッシュなど、伝統的な技法にフィリピンらしさを融合させたいんです」

 

家でもパンをおいしく

湿度の高いフィリピンでは、パンの保存にも工夫が必要だという。
「翌日もしっとりさせたいなら紙袋に入れておくのがいいです。長く保存したいなら冷凍ですね。自然解凍して温めれば、クラスト(外皮)の食感も戻ります」

「クラストのあるパンは軽く霧吹きして200度のオーブンで5分。ソフト系のパンは電子レンジかトースターで軽く温めるだけで十分です。余ったパンはフレンチトーストやクルトンにしてもいいですよ」

 

素材と“時間”へのこだわり

「パン作りで一番大切なのは粉と酵母。そして、バターやミルクも品質のいいものを使うことです」

ペニンシュラでは、商業用イーストと天然酵母の両方を使い分けている。
「天然酵母は風味が深く、商業用イーストは安定感がある。パンの種類によって使い分けます」

ただし、決して妥協しないものがひとつある。
「時間です。パンは発酵と休ませる時間が大事。急ぐと絶対にいいパンはできません」

 

 

 

 

「パンは、人をつなぐもの」

最後に、パンを通して伝えたいことを尋ねると、アコスタさんは穏やかに微笑んだ。
「パンは、人をつなぐものだと思います。ペニンシュラのパンを食べた人に、僕たちが込めた想いが伝われば、それが何よりうれしい。だから、パンを焼くことに意味があるんです」

 

 

The Peninsula Boutique ザ・ペニンシュラ・ブティック

2025年12月号「お気に入りのパンを探そう! マニラベーカリーさんぽ。」

 

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Primer特集インタビュー 前回のコラム

マカティの日本食スーパー「ニューはっちん」の隣に店を構えるベーカリー&パティスリー「べべ・ルージュ」の三津間さん。 日本で製菓学校を卒業後、講師としてフランスへ。帰国後は東京・世田谷のパティスリーで腕を磨き、2007年にフィリピンへ移住した。 はっちんの一角でパンを焼き始めたのが、この店の原点だ。

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