2020年1月24日
国際協力銀行(JBIC)とフィリピン日本人商工会議所(JCCIPI)は1月23 日、マニラ首都圏マカティ市のデュシタニホテルにおいて、「フィリピンの2019年振り返りと展望ならびに海外投資動向セミナー」を開催した。
第1部の梅林光紘氏による「フィリピンにおける経済・政治・社会・外交」に関しての講演に続き、第2部ではJBIC調査部の春日剛課長と池永あずさ調査役による「2019年日本の製造業企業の海外直接投資アンケート調査報告」が行われた。このアンケート調査は 2019年6月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである((対象企業数1,004社、有効回答数588社、有効回答率58.8%)。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で31回目となる。このアンケート調査結果は、すでに2019年11月27日に公表されているが、今回のセミナーにおいては、特に、フィリピンやASEANの動向に関して詳細な説明が行われた。
2019年調査では、「事業実績評価」、「事業展開見通し」、「中期的な有望事業展開先国・地域」などの定例テーマに加え、個別テーマとして「米中摩擦の影響」と「オープン・イノベーションの海外展開」につき調査を実施した。 調査結果の要旨は以下のとおり。
(1)海外事業は不透明な情勢の中での模索が続く。
(2)有望国調査ではインドが首位。中国の2位転落がアジア各国に再評価の機会をもたらしている。
(3)米中摩擦の影響が広がる中、日本企業は両国との共存の道を模索している。
(4)イノベーションは海外展開への期待を高めており、とりわけ上海に注目が集まっている。
(5)今後は、技術の探索力と課題解決を提案する訴求力、それを支える組織力が海外で試される
(1)のように不透明な海外情勢という環境下で全体として模索が続く中で、フィリピン、ベトナム、インドで新規拠点の設立を志向する企業が多く見られた。米中貿易摩擦の影響を受けた生産移管の受け皿として各国の取り組みが強化されているものと想定される。
(2)の有望国調査における、今後3年程度の有望な事業展開先国については、下表のとおり、インドが3年ぶりに首位に返り咲いた。中国の得票率が大幅に低下する中で相対的に浮上したという側面もある。同時に、アジア各国、とりわけベトナム、タイをはじめ、フィリピン、ミャンマーなど、次なる有望国も見え始めており、中国の後退がアジア各国に再評価の機会をもたらしている。
フィリピンは中期的有望事業展開先として、2019年はメキシコを抜き7位(回答企業数48社、得票率11.9%)にランクされ、2018年の8位(同43社、10.0%)から上昇した。3位のベトナム(同147社、36.4%)などは世界的に不透明感が強まる中で相対的に浮上した要素もあるが、フィリピンは回答企業数も増加しており、引き続き注目度が高まっているといえる。48社という回答企業のうち、初めてフィリピンと回答した企業数が29社に達していることが注目される。
なお、フィリピンは2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後は、2009年13位、2010年と2011年ともに14位、2012年15位であったが、2013年は11位へと上昇、2014年も連続で11位となった。そして、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いてきた。そして、2019年は7位へと上昇、1998年の6位以降の最高順位となった。
2019年の長期的(10年程度)有望事業展開先に関しても、フィリピンはメキシコと並んで8位(回答企業数35社、得票率11.8%)で、2018年(同30社、得票率8.6%)から上昇した。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年フィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2018年まで10位が続いてきた。そして、2019年は8位へと上昇、得票率も大幅に上昇した。ただし、中期的有望事業展開先と同様に、3位のベトナム(34.8%)、4位のインドネシア(28.4%)、5位のタイ(24.7%)とは大きな差が付いている。また、7位のミャンマー(13.2%)の後塵を拝している。
多くの方が会場に集まり、今回のテーマの関心の高さをうかがわせた
第1部の梅林光紘氏による「フィリピンにおける経済・政治・社会・外交」に関しての講演
第2部ではJBIC調査部の春日剛課長と池永あずさ調査役による「2019年日本の製造業企業の海外直接投資アンケート調査報告」が行われた