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【フィリピン経済ニュース】日系企業の長期的有望展開先、フィリピン7位に上昇(前年9位)

2022年12月19日

中期的では8位、課題は法運用の透明性や人材確保など:JBIC調査

 

国際協力銀行(JBIC)は、2022年の日本製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、12月16日に結果を発表した。今回の調査は、2022年7月に調査票を発送し、9月にかけて回収したものである(対象企業数946社、有効回答数531社、有効回答率56.1%)。

この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で34回目となる。2022年調査では、「事業実績評価」、「中期的な事業展開姿勢」、「中期的な有望事業展開先国・地域」などの定例テーマに加え、個別テーマとして「ウクライナ侵攻の影響」、「サプライチェーンと地政学リスク」、「サステナビリティに向けた取り組み」などについて調査を実施した。概要は下記のとおり。なお詳細は、JBICホームページに掲載されている(https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2022/1216-017128.html)。今回の調査結果の要旨は以下のとおり。

(1)日系製造業の海外事業展開はコロナ禍からの回復の兆し
昨年度までコロナ禍の影響を受け減速・停滞していた海外事業展開に回復の兆しがみられる結果となった。2021年度の海外売上高比率及び海外生産比率ともに昨年度比で上昇に転じ、更に、2022年度実績見込みの海外売上高比率及び中期計画の下での2025年時点の海外生産比率は、コロナ禍以前に近い水準まで回復する見通し。

(2)有望国ランキングでは3年ぶりにインドが首位に返り咲き中国は2位へ
中期的(今後3年程度)有望な事業展開先国・地域については、中国が得票率を大きく落とす一方、インドが3年ぶりに首位に返り咲いた。中国については徹底したゼロコロナ政策による経済活動の停滞等が得票率下落の主因とみられる。米中対立が継続する中、様々な懸念の高まりが反映された可能性もある。ASEANのうちランキング上位国は昨年度デルタ株の感染拡大で落ち込んだ得票数が僅かに反転し、順位は横ばいとなった。フィリピンは、中期的有望展開先では、前年度までの3年連続7位から1ランク後退した。しかし、長期的(今後10年程度)有望展開先では、前年度の9位から7位へと上昇した。

(3)約9割の企業がウクライナ侵攻でマイナスの影響
ロシアのウクライナ侵攻でマイナスの影響があったと回答した企業は全体の約9割に達した。具体的な影響としては「燃料価格の上昇」、「物流の混乱」、「為替変動に伴うコスト増加」が上位を占める一方、「事業の縮小・撤退」、「経済制裁対応」などの直接的な影響を受けている企業は相対的に少ない結果となった。

(4)事業戦略における地政学リスクの重要性が増し、情報収集・分析機能の強化を図っている
約9割の企業が事業戦略において地政学リスクを「非常に重要」又は「重要」と回答。こうした地政学リスクへの対応策として、調達先の多元化とともに情報収集機能やリスク分析・評価機能の強化を挙げる企業が多かった。一方で拠点配置戦略や投資計画の変更、事業の撤退・売却にまで至っているケースは僅少であった。なお米中デカップリングについては、有望国ランキングでの中国の得票率低下と同様の理由で「中国事業を強化する」企業が減少する一方、「米国事業を強化する」企業が増加した。

(5)約8割の企業がサステナビリティを考慮、うち脱炭素については75%の企業が取り組みに着手済
約8割の企業が海外事業を運営する上でサステナビリティを考慮すると回答。海外事業展開意欲の高い企業、また地政学リスクを重視する企業ほどサステナビリティを考慮する傾向にあることが示された。またサステナビリティのうち脱炭素・気候変動問題への関心が圧倒的に高く、75%の企業が既に何らかの取り組みに着手済みであり、5割強の企業が2050年カーボンニュートラルとの政府目標に沿う、又はそれ以上の取り組みを行っていることが分かった。また脱炭素への取り組みが積極的な企業ほどブランドイメージ強化といった能動的な動機で取り組んでいることが示された。人権問題については、企業の取り組み状況が昨年度から大きく進展している結果となった。

<フィリピンに対する評価など>
フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後、再上昇基調となり、2013年と2014年は連続11位、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いた。そして、2019年はメキシコを抜き7位に浮上、2020年、2021年と3年連続で7位となった。ただし、2021年の得票率は9.0%で、2020年の10.4%から低下、8年ぶりの10%台割れとなるなど、他のASEAN各国と同様得票率が低下した。更に2022年の得票率は7.6%に低下、順位も8位へと1ランク後退した。そして、4位のベトナム(28.9%)、5位のタイ(23.2%)、6位のインドネシア(21%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年が7位、1998年が6位、1999年が7位、2000年10位と推移していた。得票率過去最高は1995年の15.4%、過去最低は2008年の1.5%であった。

2022年調査におけるフィリピンの中期的有望の理由としては、「現地市場の今後の成長性」(比率55.6%)、「安価な労働力」(55.6%)の比率が再び上昇に転じトップに並んだ。「他国のリスク分散の受け皿として」(40.7%)や「第三国輸出拠点として」(33.3%)への得票率がここ3年で急上昇、過去最高の水準に達している。米中摩擦の下で事業リスクの分散先としての事業拠点への期待が高まっていることが窺われる。

一方、課題としては、1位が「法制の運用が不透明」(42.3%)で、ドゥテルテ前政権下で上昇傾向を示している。2位が「技術系人材の確保が困難」(30.8%)と「労働コストの上昇」(30.8%)、4位が「管理職クラスの人材確保」(26.9%)、5位が「地場裾野産業が未発達」(23.1%)と続く。「治安・社会情勢が不安」と「インフラ未整備」はともに15.4%で、前年からは大幅に低下した。

長期的(10年程度)有望事業展開先では、フィリピンに対する最近の評価は上昇基調となっている。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年ではフィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2018年まで10位が続いてきた。2019年は8位(得票率11.8%)へと上昇した。2020年は9位(9.5%)、2021年も9位(7.0%)とベスト10入りが続いており、2022年は7位(9.4%)で最近では最高の順位となっている。

ただし、中期的有望事業展開先と同様に、4位のベトナム(28.1%)、5位のインドネシア(22.6%)、6位のタイ(19.1%)とは大きな差が付いている。また、軍事クーデターで大きく揺れているミャンマーが2021年の8位から大きく後退していることで順位が上昇したという要素もある。

 日本製造業企業の中期的(3年程度)有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)

 

日本製造業企業の長期的(10年程度)有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答:JBIC調査)

 

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