フィリピンのビジネスにまつわる様々な情報を、JETROの吉田さんに寄稿いただくコーナーをご紹介!今回は、注目トピックである「マルコス新大統領の経済政策」に関するインタビューをご紹介します。
2022年6月30日に就任したフェルディナンド・マルコス新大統領の経済政策について、JETROマニラの吉田さんが、フィリピン大学経済学部准教授のレナート・レシーデ・ジュニア氏にインタビューを行いました。
同氏は、マクロ経済学や公共経済学を専門とする経済学者で、フィリピン財務省(DOF)や国際金融公社(IFC)の研究プロジェクトに参画した実績を持ちます。
フィリピン大学経済学部准教授
レナート・レシーデ・ジュニア(Renato E. Reside Jr., PhD)
フィリピン大学経済学部准教授。フォーダム大学にて博士号を取得(経済学)。フィリピン財務省(DOF)や国際金融公社(IFC)の研究プロジェクトに参画した実績を有する。研究分野は、マクロ経済学、金融論、公共経済学など。
マルコス政権の経済政策についてどのように見ていますか?
現時点で政権の評価を行うのは、早計と言えるかもしれません。経済政策について、明らかにされるべき多くの事項が残っています。一方で、マルコス大統領は経済問題に対して既にいくつかのアクションを取っていますし、施政方針演説で見解を述べています。
アクションの1つとして、ブラカン空港に経済特区を新設する法案に対して、マルコス大統領は7月頭に拒否権を発動しました(注1)。2つ目のアクションとして、選挙運営に従事する教師が労務対価として受け取る謝金などについて、非課税とする法案に対しても拒否権を7月に発動しました。同法案が可決してしまうと、税収減につながるため、マルコス大統領は法案に反対し、拒否権を発動したとみています。
私はこれらのアクションから、新政権は財政支出・減税に対してやや保守的なスタンスかもしれないと考えています。マルコス大統領は施政方針演説の中でも財政改革を実現し、国家の財政余力の確保を目指すことを明らかにしています。今後検討されうる、財政改革の中には、不動産価値評価方法の見直しやデジタル上で行われる取引に対する課税導入などが挙げられます。
マルコス政権が掲げた「8つの社会経済政策アジェンダ」(注2)についてはどのように見ていますか。
アジェンダの個々の項目は、経済成長や貧困削減に資するといった意味で、全て重要なテーマでしょう。私は個々の項目の内容について、問題があると思っていません。重要なことは、どのようにしてアジェンダを実際に達成するのかということです。「悪魔は細部に宿る」ということわざがありますよね。私は、個々のアジェンダを達成する方法について、大統領は細部の検討を政権の閣僚らにゆだねると考えています。
もう一つ、注意すべき点は、いくつかのアジェンダについて達成しようと思うと、他のアジェンダの達成を後回しにせざるを得ないケースもあるということです。例えば、フィリピンの食糧安全保障を守るという目標と、家計の購買力を維持するという目標は両立させることが難しい問題です。(輸入をなるべく行わず)国内での食料調達を優先すれば、食料価格の上昇につながる可能性があるからです。個々のアジェンダの内容は明快ですが、それを実現するとなると困難な部分もあるでしょう。
つづきは、こちらの記事から!
(注1)マルコス大統領は2022年7月、マニラ首都圏から北部にあるブラカン空港や同空港に近接するエリアを経済特区・フリーポートとする下院法案第7575号に対して大統領拒否権を発動した。マルコス大統領は拒否権発動の理由として、新たな経済特区設置が税源浸食となりうることや既存のクラーク経済特区に隣接していること等を挙げている。
(注2)フィリピンのベンジャミン・ディオクノ財務相など経済閣僚らは7月26日、マルコス大統領の施政方針演説後に行われた経済ブリーフィングで、マルコス政権での8つの社会経済政策アジェンダを明らかにした。アジェンダは物価上昇や新型コロナウイルスなど国民が直面する課題について短期的に実現を目指す項目と、雇用の創出やデジタル化など中期的に実現を目指す項目の2つに分かれている。