フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していだきます。
昨今、EV(注)への関心が世界的に高まっています。そうした中で、フィリピン国内においてもEVを導入あるいは生産する動きが起きています。本稿では、フィリピンのEV産業について概況を説明します。
フィリピンでのEVの普及状況
2010年から2020年までに1万2,965台がフィリピンでEVとして登録されました(図1を参照)。なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、2020年は登録台数が2019年比で35.4%減となっています。
図1:EVの年間新規登録台数
出所:フィリピン陸運局(LTO)、フィリピン政府通信社
同期間に登録されたEV全体の54.8%(7,100台)が電気トライシクル(電動三輪自動車)で、多くを占めます。そのほか、電動バイクが37.4%(4,845台)、電気ジプニー(乗り合いバス)が5.2%(679台)、電気自動車が2.1%(276台)の割合で登録されています(図2および「ビジネス・ミラー」紙2021年9月23日付参照)。
図2:登録されたEVの内訳(2010年~2020年)
出所:LTO、フィリピン貿易産業省(DTI)
フィリピン電気自動車連盟(EVAP)によると、大半の電気トライシクルと電気ジプニーがフィリピン国内で生産されています。一方、電気自動車の多くは輸入車です。図2から分かるように、フィリピンで流通している「EV」は、国際的な大手自動車メーカーが生産する「電気自動車」ではなく、電気トライシクルをはじめとするフィリピンのローカルな移動手段を電動化した車体が中心となります。
フィリピンでのEV普及に関する課題
フィリピンでEVの普及が進展するにあたり、いくつかの課題が存在します。1つ目の課題は、充電スタンドの数が非常に少ないことです。フィリピン貿易産業省(DTI)によると、2022年1月時点でフィリピン国内に126の普通充電方式〔交流(AC)〕のスタンド、11の急速充電方式〔直流(DC)〕のスタンドが設置されているのみです。また、スタンドの多くは大都市部に集中して設置されています。一方、日本では、商業施設や宿泊施設など、公共の場で誰もが使える充電スタンドの数は、2021年3月末時点で2万9,233基です(ゼンリン調べ)。 2つ目の課題は、コスト面です。電気自動車はそれ自体の販売価格が高いのに加え、フィリピンは電気料金が他のアセアン諸国などと比較して高額です。そのため、「ガソリン代金がかからず、ランニングコストが低い」という電気自動車のメリットが、フィリピンでは高い電気料金によって低減します。 他にもバッテリーに使用される化学物質を起因とした発火の可能性に関する指摘など、安全面での懸念も存在します(フィリピン開発研究所(PIDS)のレポートを参照)。
フィリピン政府の政策動向
フィリピン政府は、国内経済の化石燃料への依存度を下げることや、産業開発の観点から、EV産業への支援に積極的な姿勢を見せています。
直近では、EV産業を強力に支援する法案が議会を通過し、2022年3月13日時点で大統領の署名待ちです。同法案は、エネルギー安全保障や産業開発などの観点から、EV産業育成に関する国家戦略を定め、EVに関する制度の基礎的なフレームワークを提示しています。具体的には、交通の電動化を進めるべく「包括的なEV産業ロードマップ」(CREVI)を策定するとしています。ロードマップにてEVや充電スタンド・関連施設、機器・部品、バッテリーなどについての規格・仕様が定められます。また、フィリピン国内での充電インフラを整備すべく、駐車場やガソリンステーションにて充電スタンドの設置を行うタイムスケジュールも盛り込まれています。
こうした法案が成立することで、フィリピンのEV産業を取り巻く環境が大きく改善する可能性もあります。
(注)本稿では、電気トライシクルや電動バイク、電気ジプニーなどを含めた広義の「電気自動車」を「EV」と表記します。
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