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フィリピン企業への投資にあたって、企業文化の理解は必須【フィリピンビジネス情報 by JETRO 第16回】

  フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。

近年、日本企業によるクロスボーダーでの資本提携やM&A取引が増加傾向にあります。その中で、アセアンは日本企業による主要な投資先の1つとなっています。ジェトロは今回、アテネオ・デ・マニラ大学経営大学院のレベリック・T・ナン博士にフィリピン企業のコーポレート・ガバナンス(注1)や日本企業がフィリピンにて投資を行う際の注意点についてインタビューを行いました。

日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ /
Japan External Trade Organization (JETRO) Manila
吉田 暁彦さん Mr. Akihiko Yoshida

 

2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月より現職。フィリピン経済についての調査・情報発信と、日系スタートアップに対するフィリピンへの展開支援を主に担当。

 

 

 

 

インタビュー日:2023年5月10日

 

<フィリピンのコーポレート・ガバナンス事情>

 

質問:フィリピンでのコーポレート・ガバナンスに対する関心の有無について教えてほしい。

答え:フィリピンでは、特にESG(注2)の観点から、コーポレート・ガバナンスへの関心が高まっている。その理由として、フィリピンでは人口の大部分がミレニアル世代とZ世代であり、彼らがESGに対して敏感であることが挙げられる。加えて、技術革新によって、情報が人々に迅速に伝わるようになっている。情報伝達・拡散のスピードが企業経営に甚大な影響を与えていることは、最近、米国のシリコンバレーバンク(SVB)が一瞬で破綻をしたことに鑑みれば、明らかであろう。 また、重要なことは、大半の企業は資金調達を必要としており、投資を引き付ける1つのアピール材料が、優れたコーポレート・ガバナンスを示すことである。コーポレート・ガバナンスはあらゆる国において経済発展を実現するうえで大きな影響を及ぼすものである。特に、フィリピンのような発展途上国の企業に対して資本の流入を促すという点で、その重要性が大きい。 本題に入る前に、ガバナンスとは、実際には人々のマインドセットと大きく関係していることを強調したい。なぜなら、優れたガバナンスは、取締役会、上級幹部やその他の企業の意思決定に関与する人々の価値観および行動を通して、もたらされるからだ。

質問:コーポレート・ガバナンスに関する政府の取り組みの有無を教えてほしい。

答え:政府もコーポレート・ガバナンスに対して関心が高い。フィリピン証券取引委員会(SEC)はコーポレート・ガバナンスに関する各種のガイドラインを発行している。

質問:フィリピンでのコーポレート・ガバナンスにおける課題を教えてほしい。

答え:例えば取締役会メンバーの報酬の透明性だ。フィリピンの会社では、彼らの報酬が適切に公開されてない場合が見られる。 企業の所有構造にも課題がある。他のアジアの国々同様、フィリピンの上場企業の大半はファミリービジネスである。株式の過半数は特定の家族集団が保有している。会社の意思決定の過程において、家族集団の意見ばかりが尊重され、少数株主の意見が考慮されないことが多い。しかし、企業は特定の家族にのみ排他的に所有されるものではなく、株式の保有比率に関わらず、株式の保有者全てに帰属するものである。上場企業は、当該企業の株式を保有する者全員に対して説明責任を有するのだ。優れたコーポレート・ガバナンスを行っているのかどうか、家族集団のような大株主を抱える企業が少数株主をどのように扱っているのか見ればよい。 加えて、フィリピン企業での役員の任命には縁故主義が蔓延している。フィリピン企業で取締役会メンバーに指名されるものの多くは、任命者と個人的な利害関係を有するケースが多い。しかし、長期的な企業価値の向上を志向するのであれば、利害関係を有さない、独立した立場の取締役を受け入れることがよい選択であると考えている。 企業経営に目を向けると、「CEOの二重性」がフィリピンでは多く見られる。CEOの二重性とは、取締役会会長が最高経営責任者(CEO)を兼任している場合を指す。フィリピン証券取引委員会(SEC)は、経営者が取締役会から企業の事業運営を実施する権限を与えられていると規定している。しかし、CEOが取締役会会長を兼任することで、取締役会が経営者をモニタリングする機能が毀損され、特定の個人に強大な権力を与える温床となる。 また、企業は多様なステークホルダーに対しても説明責任を有する時代にある。企業には倫理的な振る舞いが求められている。企業がコーポレート・ガバナンスを無視して、単に利益の追求を行うべきだという見解には批判が高まっている。

 

 

<フィリピンでのM&A成功の秘訣>

 

 

質問:日本企業をはじめとする外国企業がフィリピンでビジネス展開を行うにあたり、コーポレート・ガバナンスに関して配慮すべきことを教えてほしい。

答え:フィリピンの文化を知ることだ。文化というのは、国民文化のみを指しているのではない。企業文化も含まれている。フィリピンの企業内での文化を知らないことは、潜在的なリスクとなり、組織に危機をもたらす原因となりえる。というのも、企業文化について理解に乏しいことは、リーダーシップの欠如を発生させ、企業のパフォーマンスを押し下げる方向に作用するからだ。

質問:経済のグローバル化により、M&A取引も今後増加していく可能性がある。コーポレート・ガバナンスの観点から、日本とフィリピン企業間でのM&A取引ではどのような点を考慮すべきか。

答え:まず、M&Aについての私の見解を明らかにしたい。M&Aは企業の成長や事業戦略において非常に重要な取引であると考えている。買収が成功すれば、企業は市場での存在感、市場シェア、収益などを劇的に増加させることができる。 しかし実際にM&Aを行うとなると多くの課題に直面するのも事実だ。 企業のデューディリジェンスはM&Aを実行するにあたっての潜在的なリスクの把握や企業価値評価を行う上で考慮すべき材料を探索するにあたって、重要なプロセスである。M&A実行にあたっての交渉段階では、利害の対立も発生しうる。また、企業統合の過程においては、前述の「文化」が重要な要素となってくる。社内の手続きや企業の従業員、彼らの行動等、あらゆる点が複雑に作用する。 結局は、企業内の人々とどのように働くことができるかによってM&Aの成否は大きく依存してくると考えている。そのためにも文化を理解し、文化に適応していくこと。これがフィリピン企業と協業するうえでの成功の秘訣でしょう。

(注1)コーポレート・ガバナンスとは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのこと。
(注2)ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指す。

 

略歴
レベリック・T・ナン博士(Leveric T. Ng, DBA)
アテネオ・デ・マニラ大学経営大学院専任教員。同大学院にてマネジメント(コーポレート・ガバナンス、マーケティング、戦略的経営管理、マネジメント・ダイナミックス)をテーマに教鞭をとる。経営コンサルタントでもあり、小売、航空会社、ホテル、ヘルスケア業界にて取締役会および非取締役会の役員を30年以上にわたって務めた経験を有する。デ・ラ・サール大学で経営学博士号を、オクラホマシティ大学で経営学修士号を取得。

 

JETRO サイト:
https://www.jetro.go.jp/philippines/

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