フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。
フィリピンは世界で有数の災害大国に位置づけられます。自然災害(嵐、洪水、熱波など)がもたらす影響について分析した” Global Climate Risk Index 2021”によると、フィリピンは2000年~2019年の期間で、世界で4番目に自然災害の影響を受けた国となっています(注)。
今回はフィリピンの自然災害について記載します。
<自然災害に脆弱なフィリピン>
フィリピンは自然災害に対して非常に脆弱な国であり、世界銀行によると、国土の60%、人口の74%が洪水、サイクロン、干ばつ、地震、地滑りなどの危険にさらされています。1990年以降、フィリピンでは565もの自然災害が発生し、7万人が死亡。また、約230億ドルもの経済的損失をもたらしました。
特に自然災害の中で発生頻度が多いのは、嵐と洪水です。嵐は1980年~2020年に発生した自然災害のうち46.9%、洪水は23.1%を占めています(図1を参照)。嵐の発生頻度に関しては、フィリピンは世界的に台風の活動が多い太平洋西部に位置し、年平均で20つもの台風を経験します。うち、8つの台風がフィリピンの国土に上陸します。
図1:自然災害の発生頻度の内訳(1980年~2020年)
出所:世界銀行ウェブページより、ジェトロ作成。
自然災害がもたらす被害は今後拡大する可能性が指摘されています。その理由の1つとして、気候変動による温暖化によって、フィリピンでの降雨のパターンが変化し、異常気象がより頻繁に発生すると予想されることが挙げられます(「フィルスター」紙2022年10月26日付)。世界銀行は2022年10月26日、仮にフィリピンが気候変動に対処しなかった場合、2030年にはGDPの7.6%、2040年には13.6%の経済的損失が発生しうると発表しました。
<フィリピンで洪水被害が深刻な理由>
先ほどはフィリピンが地理的な要因によって、嵐などの被害が多くなってしまうことを述べましたが、洪水被害が多いことに関しては、人為的な要因も背景にあると言われています。人為的な要因とは、同国で急速に都市への人口集中が発生したこと、また都市化の過程において洪水などの自然災害の被害を少なくするような都市計画が十分になされなかったことです。
都市化によって河川や湖の排水・貯水機能が低下します。都市では地面が人工的に舗装されているので、雨水の多くは地面に吸い込まれずに排水溝に入り、人工的に作られた下水管や開放水路を経由して河川に放流されます。そのため、一時的な豪雨によって雨水等が急速に都市に流入することで、都市部での排水速度を大きく上回り、洪水被害が発生しやすくなります。加えて、フィリピンのいくつかの地域では、ごみの投棄により、ごみが河川に堆積し、被害をより深刻にさせています。下の図2は横軸に年、縦軸に洪水被害人数をプロットしたものです。2000年代後半から洪水の被害規模が大きくなっていることが分かります。
図2:洪水被害人数の推移
出所:世界銀行ウェブページより、ジェトロ作成。
フィリピンでの災害状況を受け、日本政府・国際協力機構(JICA)や、アジア開発銀行をはじめとする国際機関は洪水防御対策に関する支援を行っています。
<マルコス政権下で防災分野のビジネスチャンスが拡大する可能性も>
フィリピンにおいて自然災害被害が深刻であることは、同じく災害大国といわれる日本の経験やノウハウを同国に導入する余地があるといえます。注目すべきは、マルコス政権において、気候変動リスクへの対処が政権のアジェンダの1つに位置づけられていることです。
2023年1月1日、フィリピン政府は現政権の社会・経済政策方針をまとめた「フィリピン開発計画2023―2028」をリリースしました。同計画は10の章からなり、その中の第1章「経済的および社会的変革のための計画」、第2章「人間と社会発展の促進」や第3章「脆弱性の減少と購買力の維持」において、気候変動・災害問題に対処していくことが言及されています。マルコス政権は防災分野に対して重点的に政策を実施していくことが見込まれます。
世界銀行は2022年10月26日に、気候変動リスクを軽減する投資を行うことで、2040年までにフィリピンのGDPを0.5%引き上げ、8万人もの雇用を生み出すとの推計結果を明らかにしました。防災分野への投資が少なからぬ経済効果をもたらすといえそうです。そうした中で、日本企業の有する高度な防災技術を導入するビジネスチャンスも広がっていく可能性があります。
フィリピンの河川(マニラ首都圏、2022年12月にジェトロ撮影)
(注)Global Climate Risk Index 2021によると、2000年~2019年で最も自然災害の影響を受けた国はプエルトリコ、2位はミャンマー、3位はハイチ、5位はモザンビークとなっています。
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