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砂糖や玉ねぎが不足するフィリピンの食糧事情【フィリピンビジネス情報 by JETRO 第8回】

  フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。

フィリピンでは、2022年の8月頃から砂糖や玉ねぎといった農産品の供給について、不安が指摘されています。8月中旬には、フィリピン農業省傘下の砂糖統制局(SRA)が規定量とは別にマルコス大統領の許可なく30万トンの輸入を試み、同省の次官が辞任する等、政治問題まで発展しました。今回は、フィリピンの食糧事情について説明します。

日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ /
Japan External Trade Organization (JETRO) Manila
吉田 暁彦さん Mr. Akihiko Yoshida

 

2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月より現職。フィリピン経済についての調査・情報発信と、日系スタートアップに対するフィリピンへの展開支援を主に担当。

 

 

 

<フィリピンの食糧自給率>

 

フィリピンは、日本で流通しているバナナやパイナップルの多くを生産しており、また、気候が1年中温暖で多湿と恵まれていることから、「農業資源は豊富だ」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。フィリピンの主要な農産品の自給率(注1)は、以下の図1の通りになります。

 

図1:農産品の自給率(%)

 

 

出所:フィリピン統計庁(PSA)資料より、ジェトロ作成。なお、2020年のサトウキビの自給率はPSAの資料に明示的に記載がなかったため、「-」としている。

 

バナナやパイナップル、マンゴーについては、輸出量が多いため、自給率の定義から100%を超える水準で推移しています。これらの農産品の生産において、フィリピンは強みを有していると言えるでしょう。他方、最近、不足が指摘されているニンニクは自給率が対象年の全ての年において、100%を大きく下回っていることが確認できます。自給率が100%を満たない産品に関しては、フィリピン国内での超過需要を解消すべく、フィリピン国外から一定程度、輸入によって当該産品を調達する必要があります。そのため、ニンニクのような自給率が低い農産品は、国際的な商品市況の影響を大きく受けます。なお、フィリピンが輸入するニンニクの大半は中国産もしくはインド産です。中国では、8月に干ばつによる記録的な水不足が発生し、ニンニクを含む多くの農作物生産に対してダメージを与えました。フィリピンでのニンニク不足は、中国の干ばつと大きく連動している可能性があります。
 玉ねぎの自給率は2016年の47.6%から2019年の90.5%と年によってかなり変動していますが、いずれの年もフィリピン国内での玉ねぎの生産動向が市場での供給・価格に大きく影響を与えうる水準です。2022年8月より議論となっている玉ねぎの価格高騰について、白玉ねぎの国内在庫は7月初旬には既に枯渇しており、フィリピン産白玉ねぎの市場供給が途絶えたことが原因であると報道されています(2022年8月19日付「インクワイヤラー」紙)。なお、玉ねぎに関しては、度々フィリピンへの密輸が行われており、政府が頭を悩ませている農産品でもあります。

 砂糖の原料であるサトウキビは2016年から2019年にかけて100%の自給率を維持していました。フィリピンは外国と砂糖の輸出入を行っており、生産したサトウキビの全てが国内消費用の砂糖生産に使用されているわけではありませんが、自給率の数字上では、フィリピンでの砂糖需要をある程度、国内生産で対応させることができると言えます。問題は、2022年のサトウキビの生産量について、2022年の4~6月は対前年同期マイナス53.8%と大きな減少が起こったことです(2021年4~6月の生産量が691万トンに対して、2022年4~6月は319万トン、PSA発表)。サトウキビの生産量が多く減少した理由として、2021年末にサトウキビの主要生産地であるビザヤ地域を直撃した台風22号(フィリピン名:オデット)や天候不順によって生産地が大きなダメージを受けたとの報道があります(「ビジネス・ワールド」紙2022年8月15日付)。

 

 

<長期的な視点から見たフィリピンの農業>

 

続いて、より長期的なデータから見た際の、フィリピン農業の特徴を見ていきたいと思います。以下の図2は、1998年から2021年までのフィリピンの農林水産物・食品輸出額の貿易収支を時系列で取っています。

 

図2:フィリピンの農林水産物・食品の貿易収支

 

 

出所:グローバル・トレード・アトラスよりジェトロ作成(注2)。

 

2016年よりフィリピンの農林水産物・食品輸出額の貿易収支は一気に悪化し、直近の2021年には91億2,194万9,000ドルの赤字となっています。特に赤字額が大きいのは、穀物(2021年の金額は、31億3,142万6,000ドル)や動物の飼料等(同17億7,165万3,000ドル)、肉及び食用のくず肉(同16億6,190万3,000ドル)です。農林水産物・食品の貿易収支赤字の急速な拡大は、フィリピンの経済成長が進展しつつあり、人々の食生活が豊かになってきたことを表しているのかもしれません。

 

<マルコス政権の農業分野に対する姿勢>

 

一方で、マルコス大統領は自ら農業大臣を兼任し、「食糧安全保障の強化」を政権の最重要テーマと位置付けています。マルコス大統領はフィリピンの農業について、①研究開発から小売りにいたるまでフード・バリューチェーンを再構築し、②十分な食料供給を確保するために、輸入を必要最低限に抑え、特にコメやトウモロコシについて、フィリピン国内での生産を拡大すると明言しています。
 国内農業重視の姿勢は、2023年の大統領予算案にも明確に表れています。フィリピン予算管理省(DBM)は8月22日、過去最大規模となる5兆2,680億ペソ(約13兆1,700億円、1ペソ=約2.5円)の2023年大統領予算案を議会へ提示しました。その中で、「農業」は「教育」、「インフラ」、「健康」、「社会セーフティネット」とともに優先分野とされ、割当額は対前年比39.3%増の1,841億ペソとなりました。
 フィリピンの農業は近隣のアセアン諸国と比較した際に長年にわたって生産性の伸び率が低い等、多くの問題を抱えています(注3)。また、直近では、食品の価格上昇率が著しく(注4)、仮に輸入抑制政策を強固に実施した場合、市場で追加的な供給不足が発生し、さらなる食品の価格上昇を誘発させるリスクがあります。今回の一連の食品不足騒動によって、マルコス大統領は就任以来の困難な政策のかじ取りを問われています。

 

(注1)自給率は、「(国内生産量)/(国内生産量+純輸入量)」にて算出。

(注2)HSコード1~24、44を集計。

(注3)例えば、Rowena T. Baconguis (FEBRUARY 2022) ” Agricultural Technology: Why Does the Level of Agricultural Production Remain Low Despite Increased Investments in Research and Extension?”を参照。

(注4)2022年8月の食品価格の上昇率は6.5%(出所:PSA)。

(寄稿:2022年9月12日)

 

JETRO サイト:
https://www.jetro.go.jp/philippines/

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