フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。
フィリピンでは、マニラ首都圏から北西約120キロにて新都市「ニュークラークシティー(NCC)」の開発が進められています。NCC開発プロジェクトは、旧クラーク米空軍跡地にスマートシティーを新たに開発する大規模な計画で、丸紅や中部電力など日本企業も参画しています。今回は、NCCについて説明いたします。
<マニラ首都圏への経済一極集中を緩和すべく新都市を設立 -BGC開発の反省を経て―>
フィリピンでは急速な経済成長に伴って、各地で都市開発プロジェクトが進行しています。その中でも最大規模と位置付けられるのが、「ニュークラークシティー(NCC)」のプロジェクトです。1990年代初頭の米軍撤退後の広大な旧クラーク米空軍跡地に、政府機関であるフィリピン基地転換開発公社(BCDA)が再開発の音頭を取って、プロジェクトを進めています。なお、BCDAはマニラ首都圏にある新興商業都市、ボニファシオ・グローバル・シティー(BGC)の開発を手掛けた実績があります(注)。
NCC開発を行うフィリピン政府の動機の1つとして、経済活動が集中するマニラ首都圏からの分散化が挙げられます。マニラ首都圏は、人口集中によって、交通渋滞が慢性的に発生し、鉄道の老朽化、港湾の混雑が常態化するなど、公共インフラの整備が喫緊の課題となっています。NCCの開発を進めることで、フィリピン政府はマニラ首都圏への人口の一極集中を分散化し、持続可能で、環境に配慮した都市発展の実現を目指しています。
また、BCDAの担当者は、ニュークラークシティーの開発にあたって、同機関が手掛けたBGCの開発での反省を踏まえていると話します(ジェトロにて2023年1月にBCDAへインタビューを実施)。BGCはNCCと同じく米軍基地の跡地を活用して開発され、2000年代に入ってから急速に発展。今では、多国籍企業の瀟洒なオフィスやショッピングモール、レストラン、高級ホテル、富裕層向けコンドミニアムが林立し、フィリピン随一の「近未来都市」として発展を続けています。BGCは21世紀の経済成長著しいフィリピンを象徴する街といえるでしょう。これらはBCDAの担当者が誇る、BGC開発の成果です。
一方で、BGCの居住環境については、不動産価格が高騰し、一般的なフィリピン人では暮らすことのできない「お金持ちの街」となってしまったとBCDAの担当者は振り返ります。高騰した不動産価格によって、多くのBGCで働くフィリピン人は、BGCから離れた遠方からの通勤を強いられていると指摘します。富裕層とそれ以外の大多数のフィリピン人との格差をまざまざと示していること、これがBGCのいわば負の側面にあたるとBCDAの担当者は話します。
このため、NCC開発では、「環境面への配慮」に加え、中間層の職住近接を可能とする、ある種の「包摂性」が重要なテーマとなっています。
写真:BGCの街並み
(出所)BGCウェブページ
<NCC開発計画の概要>
NCCの開発は2016年1月に開始されました。その開発期間は50年にわたる長期をBCDAは見込んでいます。NCCの開発面積は9,450ヘクタール(山手線の内側の約1.5倍)で、BCDAの計画ではそのうち40%の面積のみを建設物の設置に用い、残りの60%を森林や広場、公園に充てる予定です。既に4.5ヘクタールのリバーパークが開発されたほか、NCCの中心地において44.8ヘクタールに及ぶセントラルパークを設置する計画があります。BCDAは、同都市に120万人が居住し、60万人の雇用が創出されると見込んでいます。
図1:NCCのマスタープラン
(出所)BCDA資料より抜粋
既に設立された施設としては、2019年の東南アジア競技大会で使用された陸上競技場(20,000人収容可能)や、水泳競技場(2,000人収容可能)、選手村があります。また、NCCでは、政府機関や教育機関の誘致・移転が目指されています。近日中に設立が予定されている施設としては、貨幣の鋳造や紙幣の印刷、国民IDの発行などを行うフィリピン中央銀行(BSP)の複合施設、種子技術に関する農業省の研究施設、科学技術省のウイルス研究施設、フィリピン大学やフィリピン工科大学の新キャンパスがあります。 NCCでは、工業団地用の敷地もあります。フィリピンの大手ディベロッパーであるフィルインベストは、主に物流、軽工業、ハイテク企業を対象とした100ヘクタールの工業団地の開発を進めています。既に入居企業の募集もフィルインベストにて始めており、工業団地に関心のある企業は、フィルイベントにコンタクトを行うこととなります。
図2:フィルインベストが開発中の工業団地イメージ
(出所)BCDA資料より抜粋
<リゾート・不動産開発プロジェクトも発表>
2022年7月にフィリピン政府は、NCCが将来的にルソン島において最高の観光地となるべく、位置付けているとコメントしました。観光地開発の一例として、クラーク自由港でカジノ・宿泊施設を展開しているハン・ディベロップメント・コーポレーションは2022年11月、NCCにて440ヘクタールという広大な土地にゴルフリゾート施設の開発を行うことを明らかにしています。
図3:ハン・ディベロップメント・コーポレーションが開発するリゾートのイメージ図
(出所)BCDA資料より抜粋
また、BCDAの発表によると、NCCにて手ごろな価格帯にて住宅を提供する実証プロジェクトも行われる予定とのことです。
図4:NCCでの住宅プロジェクトについて
(出所)BCDA資料より抜粋
NCCは現在進行形にて、様々な主体による開発計画や新規プロジェクトの策定が行われている段階です。こうした中で、「是非、日本企業の皆様にもNCCについて知ってもらいたい」とBCDAの担当者はジェトロのインタビューの中でコメントしました。
(注)BGCは、マカティ市の開発を行ったアヤラ財閥がBCDAの開発パートナーとして参画しています。
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