フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。
今回はフィリピンのインフレ率動向について説明します。2022年はフィリピンでも日本同様、物価高騰に悩まされた1年でした。2021年のインフレ率が3.9%に対して、2022年は5.8%まで高まり、フィリピン政府がインフレ目標としている2~4%を超過しました。一方、2023年に入ると、1月をピークにインフレ率は低下傾向にあります。
<フィリピンの物価上昇率の動向>
フィリピンの物価上昇率の推移を見てみましょう。フィリピンでは2022年3月より消費者物価指数(CPI)上昇率(インフレ率)が高まり、以降、右肩上がりを続けました。そして、2023年1月には8.7%を記録しました。その後、同月を境に、インフレ率は下落していき、直近の2023年7月は4.7%まで低下しています。このことから、フィリピンで昨年に大きな社会問題となった物価高騰は直近では緩和傾向にあることがわかります。
図1:フィリピンのCPI上昇率の推移(%)
出所:フィリピン統計庁(PSA)よりジェトロ作成。
次に直近のインフレ率を考察するにあたりどういった品目が価格変動しているのか、みていきます。図2は2023年1月、6月のインフレ率に対する項目ごとの寄与度を表しています。寄与度をみることで、物価変動の要因を項目ごとに分解して考えることができます。
図2:2023年1月、6月の項目ごとの寄与度
出所:フィリピン中央銀行(BSP)よりジェトロ作成。
8.7%を記録した2023年1月のインフレ率に対する項目ごとの寄与度について、「食品とノンアルコール飲料」が4.0、「住宅、水道、電気、ガス、その他の燃料」が1.8、輸送が1.0、「レストランと宿泊サービス」が0.7となっています。
6月のインフレ率は5.4%でした。寄与度からみると、「食品とノンアルコール飲料」が2.5、「住宅、水道、電気、ガス、その他の燃料」が1.2、「レストランと宿泊サービス」が0.8であり、これらの上位3項目のみで6月のインフレ率の大半を占めています。他方、「輸送」に関しては、△0.3と物価に対して下方圧力を与えています。
以上より次のことがわかります。①両月とも物価変動をもたらした主要項目は、「食品とノンアルコール飲料」、「住宅、水道、電気、ガス、その他の燃料」であることは共通しているものの、これら項目の価格上昇は1月から6月にて下落傾向にあること、②「輸送」に関してはむしろ物価下落要因に転じていること。
<世界的なエネルギー価格低迷が物価押し下げ要因か>
「食品とノンアルコール飲料」、「住宅、水道、電気、ガス、その他の燃料」の価格上昇の鈍化や「輸送」の価格下落を考察するにあたって、鍵となるのは世界でのエネルギー価格です。フィリピンは化石燃料の賦存量が少なく、化石燃料の多くを輸入によって調達する状況となっています。輸入する化石燃料で国内経済が必要とするエネルギーの大部分を確保しようとした場合、国内経済が世界的な化石燃料の供給リスクや価格変動に直接さらされることになります。したがって、世界的にエネルギー価格が下落した場合、フィリピン国内にてエネルギーを消費する部門にてサービスや製品の価格に下方圧力を発生します。
図3は原油価格の推移を示しています。原油価格は2022年初頭にロシアによるウクライナ進行により急上昇しました。しかし、2022年通年でみると、米国やサウジアラビアなどの中東諸国を中心に原油が増産されることで、価格は徐々に下落していきました。こうした原油価格の低迷がフィリピンにてより安価なエネルギー輸入を可能にし、時間差をともなって公共交通機関などでの運賃を下げる方向に作用した可能性があります。
図3:原油価格の推移(2022年~2023年5月)
出所:米国エネルギー情報局(EIA)を基にジェトロ作成。
また、景気も物価動向に影響を与えます。フィリピンの2023年第2四半期(4~6月)の経済成長率は4.3%となり、前期(1~3月)の成長率である6.4%から低下し、フィリピン政府が目標とする2023年の成長率目標6~7%を下回りました。特に需要項目からみると、「民間最終消費支出」は、2023年第2四半期は対前年同期比で5.5%増であり、2023年第1四半期の6.4%増から伸びが鈍化。政府最終消費支出は△7.1%、国内総固定資本形成は△0.04%と対前年同期比で減少しています。フィリピンは力強い内需の伸びを経済成長のドライバーとしてきました。内需の勢いが弱まることで、さらにインフレが抑制される可能性もあります。
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