フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。
フィリピン統計庁(PSA)は9月5日、2023年8月の消費者物価指数(CPI)上昇率(インフレ率)を5.3%と発表しました。同値は、フィリピン中央銀行が事前に予想していた4.8~5.6%の範囲内に収まっていたものの、大手経済メディアである「ビジネス・ワールド」紙がエコノミストから取得した予測の中央値である4.9%を超過していました(「ビジネス・ワールド」紙2023年9月6日付)。インフレ率が高まった要因の1つとして、コメ価格が大きく上昇したことが指摘されています。今回は、最近にフィリピンで話題となっているコメ価格高騰について説明します。加えて、こうした食糧問題をビジネスチャンスととらえ、果敢に農業分野へ投資する企業の動きも紹介します。
<フィリピン人家計を悩ませる、コメ価格上昇の原因>
PSAが発表した2023年8月のコメ価格は対前年同月比で8.7%増加となり、インフレ率上昇の大きな要因の1つとなりました。また、農水省(DA)のデータによると2023年9月1日時点で、国内の商業米の価格帯はキログラムあたりで42~57フィリピンペソ(109.2~148.2円)、特別米等は48~65フィリピンペソ、輸入米は43~65フィリピンペソでした。マーケットでは10フィリピンペソの価格上昇がみられたと報じられています(「フィルスター」紙2023年9月7日付)。
コメ価格上昇の背景としては、2023年7月に世界屈指のコメ生産国・輸出国であるインドにおいて、食料安全保障や国内のコメ価格安定を理由に、インドからインド国外へのコメの輸出を禁止したことが挙げられています。インドの輸出禁止措置によって、世界中でコメの需給バランスが崩れ(コメ不足になり)、急激な価格上昇につながったという指摘です。 他にも、コメ価格上昇の理由として、気候変動によってコメの生産が不安定化しつつあることや、現在発生しているエルニーニョ現象もコメの生産に悪影響を与えているとの見解もあります。
<コメ価格高騰への政府の対策>
コメ価格の高騰を受け、フェルディナンド・マルコス大統領は8月31日付けにて、大統領令第39号を発出しました。同令ではコメの価格に上限を設け、通常の白米の価格はキログラムあたり41フィリピンペソ、精米に対して45フィリピンペソを上限価格としました。同令の趣旨は、コメ価格高騰に苦しむ家計の経済的負担を緩和させることとしています。なお、上限価格の設定にあたり、フィリピン貿易産業省(DTI)やDAのメンバーから構成される委員会によってコメ価格についての助言が継続的に行われ、大統領が上限価格の廃止を宣言するまで、措置が継続するとされています。
また、9月7日、ベトナム政府より5年間、同国からフィリピンへのコメの輸出協力についての提案を受けたこと、同提案にフィリピンとして歓迎の意を示すことを大統領府は表明しました。ベトナムからフィリピンへのコメの輸出によって、フィリピン国内でのコメ供給やコメ価格の安定化につながるとマルコス大統領はコメントしました。なお、フィリピンのベトナムからのコメの輸入額は2016年を転換期とし、急速に拡大しています。
図:ベトナムからのコメの輸入金額(単位:ドル)
出所:グローバル・トレード・アトラスよりジェトロ作成。
<コメの上限価格導入に対する、フィリピン国内の反応>
政府のコメ価格上限設定については、様々な見解が表出されています。例えば、コメの小売業者団体からは、懸念の声が出ています。コメの小売業者は市場での上限価格導入により、これまで高値で購入したコメについて、安値で売ることにつながり、迅速な価格上限設定は小売業者の損失発生につながるとのコメントを出しています(「フィルスター」紙2023年9月7日付)。また、フィリピンのアドボカシー団体である経済自由財団(FEF)は、コメ価格の低減を実現するにあたり、上限価格の導入ではなく、一時的なコメの輸入関税の引き下げもしくは関税撤廃が望ましいと主張しました。そのうえで、価格上限措置はコメ生産者の生産意欲を阻害し、ブラックマーケットの形成にもつながりうるため、生産者・消費者両方にとってベストな政策でないとの見解を示しました。
<食糧問題に商機あり>
インドの輸出制限や異常気候によって発生したコメ価格高騰問題ですが、問題の本質の1つとして、フィリピン国内でコメをはじめとする主要な食糧の供給体制が十分に構築されていないことが挙げられるでしょう。下院副議長である、ラルフ・レクト氏は地元紙の中で、フィリピンの農業分野の強化に向けて、政府はより多くの予算配分を行うべきであることや、農業の持続可能性や食料安全保障を実現するため、民間企業による農業分野への投資を促すメカニズムを構築すべきであると主張しました。
こうした状況の中で、フィリピンの大手財閥メトロ・パシフィック・インベストメンツは特筆に値します。同社は2023年2月、フィリピンの大手食品企業であるアクセラム・リソースの株式の34.76%を50億フィリピンペソで保有し、アグリビジネスを同社として強化していくことを表明しました(「ビジネス・ワールド」紙2023年2月8日付)。また、地元紙によると、米国企業複数社がフィリピンでの農業ビジネスの拠点としてダバオに注目しており、投資機会探索のためにダバオを9月に訪問予定であると報じられています(「フィルスター」紙2023年9月7日付)。
フィリピンの人口や経済規模が急速に拡大を続ける中で、生産性の低い農業は従前より問題視されていました。しかし、昨今の食糧問題を奇貨とし、ビジネスへと変えていく民間企業の動きは今後増えていくかもしれません。
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