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フィリピンの主力産業、ココナッツ【フィリピンビジネス情報 by JETRO 第21回】

  フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。

今回はフィリピンのココナッツ産業に関して説明します。国連食糧農業機関(FAO)によると、2021年におけるココナッツの生産量について、フィリピンはインドネシアに次いで世界第2位でした。また、世界屈指のココナッツ関連品の輸出国であり、コプラやココナッツオイル、ココナッツパウダー、ココナッツ由来の化学品など、様々な商品を国際マーケットに供給しています。

日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ /
Japan External Trade Organization (JETRO) Manila
吉田 暁彦さん Mr. Akihiko Yoshida

 

2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月より現職。フィリピン経済についての調査・情報発信と、日系スタートアップに対するフィリピンへの展開支援を主に担当。

 

 

 

 

<フィリピンの基幹農産品としてのココナッツ>

 

ココナッツがなるココヤシは、生きるために必要な全てのものを提供するという意味で、「生命の木」と称され、フィリピンでは非常に重要な農作物とされてきました。フィリピン政府の発表によると、今日、フィリピンの全82の州のうち69の州でココナッツが栽培されています。362万ヘクタールもの土地がココナッツ栽培に利用され、推定で250万人の農民がココナッツ生産に従事しています。フィリピンには 3 億 4,700 万本以上のココヤシがあり、2018 年の総生産量は 1,470 万トンに上ります。主な生産地は、カラバルソン地方、サンボアンガ半島、ダバオ、ミンダナオ島北部です。

 

表:ココナッツ生産量上位5ヵ国(2021年時点)

 FAOウェブサイトよりジェトロ作成。

 

フィリピンでのココナッツ産業成立の背景には行政による政策的なサポートもあると考えられます。1642 年に当時のスペイン総督が食用およびガレオン船(注1)の建造に使用するココナッツの植栽に関する法令を提出したことを契機に、フィリピンのココナッツ産業は発展しました。1940年にはココナッツ産業の開発を目的とした国営企業、「ナショナル・ココナッツ・コーポレーション(NACOCO)」が設立されました。NACOCOを起源とし、フィリピンにてココナッツ産業の振興を目的とする公的機関が発展を遂げました。1973年にはフィリピン・ココナッツ庁(PCA)が様々な公的機関を統合して設立され、同機関は今日まで存続しています。PCAはココナッツ生産の効率性向上に資するプログラムの実施やココナッツ農家の所得上昇、各種の調査・研究等、様々なアプローチからココナッツ産業の発展に寄与しています。

 

<フィリピンのココナッツ産業の課題>

 

産業としては大きな規模を誇るフィリピンのココナッツ産業においても、いくつかの課題を抱えています。1つはフィリピンのココナッツの生産にあたり、その生産性が他国と比較して著しく低いことが挙げられます。インド・ココナッツ育成委員会(CDB)のデータによると、1ヘクタール当たりのココナッツの収量は、2021年時点でインドが9,430個、スリランカが7,027個、インドネシアが4,209個に対して、フィリピンは4,035個と主要生産国の中で特に生産性が低いです。また、1本のココヤシあたりの平均的な収量でみても、インドやブラジルが年間におおよそ200~400個のココナッツを生産するのに対して、フィリピンのココヤシは45個程度と低水準にあります。

 

加えて、ココヤシの高齢化や、害虫による被害、自然災害・気候変動を通じた樹木の損失といった課題も指摘されています(政府通信社2023年10月5日付)。これらの課題は、特にミンダナオ島をはじめとして、フィリピンのココナッツ農家の収入が低く、農家の貧困が社会問題として認識されてきたことと結びついています(「ビジネスワールド」紙2022年11月22日付)。ココナッツ農家のうち約半数が貧困線以下で生活し、1日あたりの収入が2ドル未満と推計されています。マルコス大統領はこれらの課題に対処するため、2023年から2028年までに1億本のココヤシを植林する、技術開発への投資を行うといった政策を打ち出しています(「インクワイヤラー」紙2023年6月29日付、政府通信社2023年10月、5日付)。

 

<環境・健康への意識の高まりから注目を集めるココナッツオイル>

 

近年では、環境・健康配慮の観点からもココナッツは注目を集めています。その例がココナッツオイルです。昨今、温暖化対策の一環としてバイオ燃料への関心が高まっています。そうした中で、ココナッツオイルは特に太平洋諸国において重要なバイオ燃料となりうる可能性を指摘されています。ココナッツオイルの排気ガスに含まれる有害な排出物は、従来のディーゼル排気ガスよりもはるかに少なく、ココナッツオイルを混合させたディーゼルは従来のディーゼルに匹敵する出力を生み出すとの報告があります(注2)。

フィリピンでは、主要な環境政策として、2007年には「バイオ燃料法」が制定され、国内で販売・分配されるディーゼル燃料について、バイオマス燃料であるバイオディーゼルとの混合率(注3)の下限が導入されました。2023年時点で、バイオディーゼルとの混合率の下限は2%となっています。さらにフィリピン・エネルギー省(DOE)は現在の2%の下限水準からの引き上げを目指しています。混合率の下限が引き上げられることにより、追加的にバイオディーゼルが必要となるため、ココナッツオイルの需要増へと作用するでしょう。同措置は間接的にココナッツ産業への支援へとつながります。

ココナッツオイルは消費者からも関心を集めています。オーガニック製品に対する需要の高まりの中、パーソナルケアなどの分野で米国を中心にココナッツオイルへの人気が高まっているとの報道があります(政府通信社2021年12月10日付)。

ココナッツオイルへの需要の高まり等を受けて、2021年にてフィリピンのココナッツオイルの輸出額は対前年比76.9%の大幅な増加を記録しました。

(注1)スペインが太平洋で用いた大型帆船。
(注2)David Parry, “Coconut Oil Biofuel in the Pacific”, 2014.を参照。
(注3)当該燃料全体の中でのバイオマス燃料の混合割合を示しています。

 

JETRO サイト:
https://www.jetro.go.jp/philippines/

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