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従業員の懲戒処分【フィリピン法律あらかると第八十回】

『従業員の懲戒処分』


今月の事例

Q.工場で働く従業員が工場から完成品を持ち出して販売していることがわかりました。会社としてはどのような懲戒処分を行うことができますか?
 
 
<Managerial prerogative>
会社の経営者には会社の運営を成功に導くために会社の運営について裁量権を有し、労働者の権利を認める一方で、このような裁量権を経営者側にも認めており、かかる裁量権はManagerial Prerogativeと呼ばれています。この裁量権は雇用主のみに属し、雇用主は、自らの認識と判断に基づき、雇用、業務の割り振り、労働方法、労働時間、場所、業務手順、労働者の管理、転勤の命令、整理解雇、懲戒、解雇などのあらゆる場面において、これを行使することができます。そして、この裁量権は雇用主が事業の発展のために悪意なく、また、労働者の権利を侵害することを目的として行うものでない限り基本的には尊重されます。そのため、善意で行使された裁量権の行使を労働者が争うことはできません。

非行行為を働いた従業員に対して懲戒権を行使することは、会社が規律を守って事業を行うためには当然必要であると考えられることから、上記の雇用主の裁量権の行使の対象と考えられます。具体的な懲戒処分としては、①戒告(口頭で与えられる注意)、②譴責(①よりさらに厳しい注意。始末書を提出させる場合もあります。)、③出勤停止(期間は非行行為の程度により異なり、出勤停止中の給与は支払われない)、④解雇などが定められていることが多いと言えます。このうち、重い懲戒処分である出勤停止や解雇については、これを雇用主が科するにあたっては、懲戒処分を科する正当な理由があるだけでなく、適切な手続を経て科されること、具体的には当人に対して弁明の機会を与え、それでもなお懲戒処分を科する明白な理由があると判断されるときにのみこれを科すことができると考えるべきでしょう。

なお、当然のことながら、どの懲戒処分にすべきかを決定するにあたっては、軽い非行行為に対しては軽い懲戒処分、重い非行行為に対しては重い懲戒処分であることが必要であり、事案に応じて妥当な懲戒処分であることが必要です。懲戒解雇につきましては、労働法上正当な解雇事由(just cause)がある場合に許されるとの明文の規定があります。それ以外の懲戒処分については、法律の明文上規定がありませんが、一般的には、①非行行為の内容、②対象となる従業員の役職(一般的に、重い役職の従業員ほど、重い懲戒処分が許されます)、③会社に与えた損害の程度、④対象となる従業員の過去の行為の有無(過去に懲戒処分を受けたことがある場合はより重い懲戒処分が許されます)等を考慮して、適切な懲戒処分が科される必要があります。

設問の場合ですが、会社の商品を勝手に持ち出して処分することは会社に対する犯罪行為ですので、労働法上も懲戒解雇が可能な場合として挙げられており、適切な手続を経た上で会社が決定すれば懲戒解雇が可能な事案であると思われます。
 
 

結論

A.非行行為を行った従業員に対して雇用主は裁量権を行使して懲戒処分を行うことができます。もっとも、処分を行うに際しては、妥当な手順および妥当な処分内容であることが必要です。

 

本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。



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