2023年6月現在、ASEAN諸国のカーボンネットゼロ目標設定状況をみると、フィリピンとミャンマー以外のアセアン諸国は2050年または2060年のネットゼロ目標を発表しています。カーボンネットゼロを達成するための施策内容は各国異なりますが、政府としてネットゼロにコミットする姿勢を見せているか、という視点でみるとフィリピンはASEANの中では一歩遅れを取っている状況です。しかしながら、フィリピンはネットゼロを宣言していないものの、再エネ推進やEV産業振興政策策定など他国と同等の規制やプログラムを実施しています。それら個々のイニシアチブをまとめ、国としてカーボンニュートラルへの道筋を打ち出せていないことが課題となっています。国全体の脱炭素政策を打ち出せていない理由はいくつかあると思いますが、脱炭素化を促進する財政や技術に乏しい、などが背景なのではないでしょうか。
脱炭素化を推進するには
①再生可能エネルギーの普及や電力マネジメントの向上など電力セクターの低炭素化と効率化
②バイオ燃料の利用拡大やEVの普及など運輸セクターの転換
③廃棄物回収・リサイクル率の向上
④鉄鋼やセメントなどの多排出産業の低炭素化
⑤森林の拡大
といった施策を優先的に取り組む必要があります。フィリピンは再エネの利用拡大を目的とした法律を2008年より施行し、再エネを拡大してきました。2040年までに発電電力の50%を再エネとする目標を立てていますが、需要に対して発電容量が不足していることもさることながら、経済発展とともに需要がさらに増加すると予想される電力市場に再エネ電源から十分な電力をどうやって供給するのか、石炭火力発電所を将来的に閉鎖するのか、といった明確な方針は出ておらず、電力セクターの低炭素化目標はありますが達成するための施策が不透明です。EV産業と市場の確立を目的とした政策も策定していますが、タイやインドネシアのように購入時の補助金はなく、EVが普及するには時間がかかりそうです。
もともとフィリピン政府は自国の努力のみで排出量削減を実現することは難しく、他国からの経済的、技術的支援が必要であるとNDC(国が決定する貢献)で公開しています。フィリピンに限らず、他のアセアン諸国も排出量削減には他国からの経済的・技術的支援が必要であると明言しており、これらの状況を受け日本政府は「アジア・ゼロエミッション共同体(Asia Zero Emission Community、AZEC)」を立ち上げ、アジア各国のエネルギーセクター事情や経済発展状況など個別の特徴に合わせて脱炭素化を支援することを表明しています。2023年3月のAZECの会合では、再エネ、バイオマス、水素、アンモニア、LNG分野で技術を持つ日本企業がアジア諸国やオーストラリアの国営企業・民間企業と締結した28件の覚書が発表され、日本企業が各国の脱炭素を支援する取り組みが始まっています。フィリピンでは東南アジア最大規模の風力発電所開発がAZECと連携したプロジェクトとして実施されています。
日本以外の国からもフィリピンの脱炭素化への支援が集まっています。支援によって脱炭素への道筋をつけ、フィリピンがネットゼロ宣言をする日もそれほど遠くないのではないかと考えます。
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