フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。
ドゥテルテ政権は、政権の重点政策として10のアジェンダを挙げました。その中で、「GDP5%相当のインフラ支出」を行い、「インフラの黄金時代」を築き上げる、通称「ビルド・ビルド・ビルド」は同政権の最重要政策の1つと位置付けられてきました。今回はビルド・ビルド・ビルドの概要について、政策の振り返りも含め説明します。
(1)インフラ支出の水準について
インフラの水準が低いことは、フィリピン経済の脆弱性の1つとして従前より問題視されてきました。例えば、2005年に発表された世界銀行のレポートにて、フィリピンでは十分にインフラが整備されておらず、経済成長や貧困削減を実現する上で大きな制約となっているとしています。
図1:インフラ支出の対GDP比
(出所)フィリピン開発研究所(PIDS), “Review of the “Build, Build, Build” Program: Implications on the Philippine Development Plan 2017-2022”, (2020)や各種報道よりジェトロ作成。
2000年からドゥテルテ政権成立する2016年まで、インフラ支出の対GDP比が5%台に達することはありませんでした。ドゥテルテ政権が目指した「5%」は過去政権の実績からするとかなり高い目標であったと言えます。
前アキノ政権では、民間企業と公共機関が連携して公共サービスを提供するPPP(官民連携)を目玉政策としていました。一方、ドゥテルテ政権では一般政府歳出やODA借款からの資金拠出を重視し、政府が主導してインフラ投資を行うことを目指しました。その理由として、PPPと比較して、一般政府歳出やODA借款による資金拠出の方がより迅速にインフラ投資を実行できるとドゥテルテ政権が考えていたことが挙げられます。結果として、ドゥテルテ政権成立以降、4~6%台の高い水準でインフラ支出が行われました。
(2)旗艦プロジェクトについて
ビルド・ビルド・ビルドの中で、特に優先度の高い案件については「旗艦プロジェクト」としてフィリピン国家経済開発庁(NEDA)がリストを公開しています。2017年には75件のプロジェクトが掲載されていましたが、その後、掲載案件のリバイスがあり、2021年5月時点のリストでは112件まで増大しています。また、2017年のリスト掲載案件全体のコスト総額は1兆6,000億ペソ(約4兆円、1フィリピンペソ=2.5円)でしたが、2021年のリストでは4兆7,000億ペソまで増加しています。112案件のうち、2022年1月3日時点で8件が完成、77件について建設が進行中、27件について計画が進行中と発表されています。
図 2:旗艦プロジェクト案件の分野別内訳
(出所)NEDA発表を基にジェトロ作成。
(3)今後の課題
前述の通り、ドゥテルテ政権下ではインフラ支出の対GDP比が高まり、過去政権と比較するとインフラ投資が進展したと言えます。しかし、インフラプロジェクトは計画・着手から完成まで長期間を要するものであり、多くの旗艦プロジェクト実施は次期政権に持ち越されることとなります。 ビルド・ビルド・ビルドを継続するにあたって、課題の一つとした提起されているのが拠出資金の問題です。2020年以降、新型コロナ禍対策のため、フィリピン政府は政府債務を急激に増加させました。
図3:政府債務の対GDP比
政府債務が高まっている状況中で、引き続きODA借款を中心にプロジェクトのファイナンスを行うのか、もしくはPPPへと重点を移すのかは論点の1つになっています。 また、日系企業のビジネスという観点では、2022年4月成立した公共サービス法の改正が今後にフィリピンでのインフラ投資における日系企業の参入にプラスの効果をもたらす可能性があります。同法成立によって、通信、鉄道、高速道路、空港、運送等の重要なインフラ分野について外資の出資が100%可能となりました。実際の運用は、今後フィリピン政府より発表される施行細則を確認する必要がありますが、出資規制が緩和されることで、フィリピンでのインフラ投資に対する参入ハードルが下がることが期待されています。
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