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■重要閣僚に経済テクノクラートを結集、経済政策運営の不確実性は減少へ
次期大統領となる、フェルディナンド・マルコス氏の経済政策運営について、選挙日(2022年5月9日)直後は財界を中心に不確実性が高いとの声がありました。同氏は公開討論会に参加せず、また、主要なメディアからのインタビューも避けていたことが理由として挙げられるかもしれません。しかし、マルコス次期政権での主要な経済閣僚が明らかになり、一部の経済団体から次期マルコス政権に対して期待感が表明される等、徐々に財界の評価が変わりつつあります。今回は次期マルコス政権の主要な経済閣僚について、彼らの経歴を中心に説明します。
<主要経済閣僚の経歴>
新政権にて、財務大臣として政府の財政政策を指揮するのは、現BSP総裁のベンジャミン・ディオクノ氏です。BSP総裁として、新型コロナ禍を起因とする経済危機に対応するため、迅速に金融緩和措置を実施。また、金融システムのデジタル化や金融包摂(注1)に尽力しました。
財界の中で、BSP総裁としてのディオクノ氏への評価は総じて高いと言えるでしょう。英国の金融経済専門誌である「バンカー」は、「新型コロナ禍という前例のない状況の中で、フィリピン経済の活性化に貢献した」として、当該年にて顕著な業績を示した中銀総裁を意味する、「グローバル・セントラル・バンカー・オブ・ザ・イヤー 2022」をディオクノ氏に付与しました。フィリピンの中銀総裁で同称号を得たのは、今回のディオクノ氏が初めてとなります。
ディオクノ氏はBSP総裁着任前、予算管理大臣を務めていました。また、同氏はフィリピン大学ディリマン校名誉教授でもあり、経済学者として実績があります。これまで財政政策やマクロ経済政策等について論文を発表しています。さらには、世界銀行やアジア開発銀行といった国際機関でアドバイザーやコンサルタントとして勤めた経験もあり、国際金融界とのパイプを有しています。 なお、同氏は5月27日にフィリピンの財政問題について、増税で対応するのは望ましくないとの立場を示しています(「ビジネス・ワールド」紙2022年5月27日付)。デジタル化の導入や汚職の削減といった、税務管理・回収の効率化を優先すべきとの見解です。
産業政策・通商政策を所管する貿易産業大臣は、現フィリピン経営管理協会(MAP)会長のアルフレド・パスクアル氏が着任予定です。MAPは主に企業の経営層が所属する団体で、経営陣同士のノウハウ共有や教育活動、政策提言を行っています。パスクアル氏は、MAPの会長に加え、大手財閥SMインベストメンツ筆頭独立取締役、建設大手メガワイド・コンストラクション独立取締役、空調大手コンセプシオン・インダストリアル取締役会委員会委員をはじめとして、複数の上場企業に役員として参画しています。
2011年から2017年にかけてはフィリピン大学総長兼共同議長を務めていました。同氏が任期中、フィリピン大学の組織改革に着手したことで、フィリピン大学は研究拠点として国際的な地位を高めたと言われています(「ビジネス・ミラー」紙2021年12月2日付)。
パスクアル氏の関心分野として、フィリピン経済のデジタル化があげられます。対内直接投資(FDI)については、データセンターのような高度な技術・施設のフィリピンへの呼び込みに注力していくとコメントしています(「ビジネス・ワールド」紙2022年5月30日付)。
マクロ経済政策の計画を所管する国家経済開発長官は、現フィリピン競争委員会会長のアルセニオ・バリサカン氏が着任予定です。フィリピン競争委員会は、市場における企業間の競争を促進することを目的とした「フィリピン競争法(Philippine Competition Act)」(2015年7月成立)に基づき設置された政府機関です。バリサカン氏はこの新設された機関の初代に初代会長に就任し、現在に至ります。フィリピン競争委員会の前は、2012年から2016年にかけて国家経済開発長官を務めました。そのため、今回、同ポジションに2回目の就任となります。また、国家経済開発長官任期中に官民連携(PPP)事業を所管する官民連携センター会長、フィリピン開発研究所(PIDS)理事長、フィリピン統計庁(PSA)長官等を兼任していました。また、2000年から2001年にかけてフィリピン農務省にて次官を務め、世界貿易機関(WTO)にて農業分野の交渉を行いました(「フィルスター」紙2022年5月23日付)。
バリサカン氏は開発経済学や農業経済学を専門とする経済学者でもあります。30年超にわたってフィリピン大学経済学部に勤務し、同大学経済学部長などを歴任しました。
バリサカン氏の経済政策に関する見解ですが、現地メディアのインタビューの中で、「インフラ投資と貧困削減への支出についてバランスを図っていくべきだ」とコメントしています(「ビジネス・ワールド」紙2022年6月1日付)。ドゥテルテ政権下で展開されているインフラ投資プログラム「ビルド・ビルド・ビルド」については、プロジェクトの停止を考えていないとしています。一方で、医療や教育への投資も注力していくべきとの立場です。
マクロ金融政策のかじ取りを担うBSP総裁は、現BSP金融政策委員会委員のフェリーペ・メダーリャ氏が着任予定です。BSP金融政策委員会委員の前は、フィリピン大学経済学部長を務めていました。経済学者として、貧困に対する経済政策の影響やフィリピンの経済成長を計測する上での課題について著作を記しています。メダーリャ氏はアカデミック分野での経歴が長いのですが、1998年から2001年にかけて国家経済開発長官を経験し、1994年に組織された税制改革に関する大統領タスクフォースにメンバーとして参画する等、行政での実績もあります。 メダーリャ氏は金融機関に対して課している預金準備率(注2)の引き下げについて言及しています(「ブルーム・バーク」紙2022年6月7日付)。具体的には、現行の12%から2%引き下げ、10%とすることを表明しています。同措置は、BSPによる政策金利引き上げの影響を緩和する措置として実行が検討されているとのことです。
<テクノクラートを結集した政権が発足へ>
今回の経済閣僚の特徴として、①フィリピン大学経済学部を中心としたエコノミスト人材を中心に抜擢されていること、②経済閣僚の大半が過去政権で要職を担った経験があることが挙げられます。大手格付け会社のフィッチ・レーティングスは、マルコス次期政権での経済閣僚について「テクノクラートらであり、賢明な政策運営が行われるように思われる」と評価しました。そのうえで、幅広い政策について現政権との連続性を期待しているとコメントしました。ただし、「政策の連続性は、次期議会の中で大統領が法案を立法化する能力にも依存してくる」と付け加えています(「フィルスター」紙2022年6月10日付)。
(注1)ファイナンシャル・インクルージョン。国民全員が基本的な金融サービスを受けられること。
(注2)金融機関の預金残高のうち、中央銀行への預け入れを義務付けられている比率。
(吉田 暁彦)
画像の出典:
Bangko Sentral ng Pilipinas' website
JETRO サイト:
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(執筆:2022年6月11日)