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フィリピンRCEP発効へ【フィリピンビジネス情報 by JETRO 第15回】

  フィリピンのビジネスに関した様々な情報をJETROの吉田さんに寄稿していただきます。

フィリピン上院は2023年2月21日、フィリピンの「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」批准に関する採決を行い、賛成多数で可決しました。そして、2023年4月3日、フィリピンは、RCEP協定の批准書を寄託者であるASEAN事務局長に寄託しました。2023年6月2日にフィリピンでもRCEPは発効することとなります。今回はフィリピンの有識者等から見たRCEPに対する見解について紹介します。

日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ /
Japan External Trade Organization (JETRO) Manila
吉田 暁彦さん Mr. Akihiko Yoshida

 

2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月より現職。フィリピン経済についての調査・情報発信と、日系スタートアップに対するフィリピンへの展開支援を主に担当。

 

 

 

 

執筆日:2023年4月10日

 

<待望のRCEP発効へ>

 

RCEPはフィリピンを含むASEAN10カ国と日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドの15カ国が参加する大型の経済連携協定です。RCEP協定の参加国の経済規模は、世界のGDP、貿易総額、人口の約3割を占めます。同協定に関して、市場アクセスの改善、知的財産や電子商取引などの幅広い分野のルール整備を通じて、地域における貿易・投資の促進およびサプライチェーンの効率化、そして自由で公正な経済秩序の構築への貢献を期待する声が日本の産業界からあります。

フィリピンは2020年11月、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名しました。その後、フィリピンがRCEP協定を批准するプロセスとしては、(1)大統領による署名、(2)上院議員の3分の2の同意を経る必要がありました。フィリピン政府は貿易産業省(DTI)を中心に早期の批准を目指していました。しかし、主に農業分野へのマイナスの影響を懸念する声があり、上院での審議が難航。ドゥテルテ前大統領は2022年 6 月までの任期中に、同批准に必要な上院での可決を得ることができないまま、マルコス大統領へとバトンを渡しました。そして、2023年2月21日、フィリピンの「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」批准に関する採決が上院にて行われ、賛成多数で可決しました。

 

 

<フィリピンのFTA政策>

 

 

フィリピンのFTA(自由貿易協定)締結のスタンスは、基本的には他のASEAN諸国と足並みをそろえ、ASEANという1つの大きな傘の下で、ASEAN+1という形でFTAを交渉・締結してきました。そうしたFTAの例として、ASEAN日本EPA(AJCEP)、ASEAN中国FTA(ACFTA)、ASEAN韓国FTA(AKFTA)、ASEANオーストラリア・ニュージーランドFTA(AANZFTA)が挙げられます。

図:フィリピンのFTA発効・署名・交渉状況

 

こうした複数国間の協定に参加する理由として、フィリピン大学名誉教授(経済・金融分野)のエピクテトス・パタリンフグ氏は、複数国間の協定の方がフィリピン等の小国は交渉力が高まる点を指摘しました(ジェトロにて2021年2月に同氏へインタビューを実施)。もし、フィリピンがRCEP協定締約国と個別に2カ国間でFTAを結ぶ場合は、(相手国との力関係によっては)RCEPには含まれないような、フィリピン側にとって経済活動上制約的な条項が入る可能性もあるとパタリンフグ氏は話します。小国にとって最良の選択は、複数の国々との交渉に参加し、より高い交渉力を得ることだとコメントしました。RCEPも「2か国間ではなく、複数協定に参加する」というフィリピン政府のこれまでのFTA政策の延長線上にあると言えます。

 

 

<RCEPに対するフィリピン側の期待>

 

 

一方で、フィリピン政府や有識者の一部は、RCEPについて貿易政策を超えた、「経済構造改革」ともいえる一連の経済政策の1つととらえていたようです。ジェトロは2021年2月にフィリピン政府のRCEP首席交渉官であった、アラン・ゲプティ貿易産業省次官補(産業・通商政策担当)にインタビューしました。インタビューの中で、同氏はRCEPについて、「規則に基づく通商体制の構築を約束しており、事業者や投資家にとって、安心材料となる」としたうえで、「フィリピン政府が推進する一連の経済改革とも整合している」と付け加えました。また、政府が取り組む経済改革として、「小売りの外資規制緩和法」や「公共サービスの外資規制緩和法」、そして「税制改革の第2弾(法人向け諸税の見直し、CREATE法)」を挙げました。

これらの政策に通底するのは、フィリピンへの市場参入にあたっての障壁の緩和やルールの整備を通じて、市場への新規参入を容易にするとともに、市場での企業間の競争を促進する狙いが挙げられます。そして、市場競争を通じて、経済・産業全体の生産性の向上が実現することを企図していると考えられます。パタリンフグ名誉教授は競争政策としてのRCEPの側面について、電気通信分野の例を挙げました。同分野は、法的に強く規制されており、市場アクセスの改善を実現するのは非常に難しい状況とパタリンフグ氏は指摘しました(注)。しかし、RCEP協定のような国際的な協定に参加し、海外に対して市場開放を約束することで、フィリピン国内の経済改革を断行することができると説明しました。

政府系シンクタンクのフィリピン開発研究所(PIDS)は、RCEPについて「フィリピンの経済発展の触媒になり得る」とし、同協定によってフィリピンのGDPが2.02%押し上げられると推計しました。RCEP自体が一定の経済効果を有すると言えそうです。しかし、RCEPが果たす役割は、それにとどまらず、同協定を梃とした、フィリピンの市場自由化の進展やいっそうの投資環境の整備にあるとも考えられます。

(注)なお、インタビュー時点(2021年2月)は公共サービス改正法の成立前で、一般顧客向けの電気通信サービスの提供は「公共事業」と定義され、外国資本が40%以下に制限されていました。その後、2022年3月に公共サービス改正法が成立し、通信分野については外資100%が可能となりました。

 

JETRO サイト:
https://www.jetro.go.jp/philippines/

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